物質・材料研究機構(NIMS)は5月16日、電解液・溶存酸素・マグネシウムの三相境界面に生じる超高抵抗が、大気下でのマグネシウム金属負極の電気化学活性の喪失を引き起こすこと、ならびにイオン交換反応を利用して、酸素透過を抑制する人工亜鉛被膜をマグネシウム金属表面に形成させることで、乾燥した空気中でのマグネシウムの酸化を抑え、不活性化を抑制することに成功したことを発表した。
同成果は、NIMS エネルギー・環境材料研究センター 電池材料分野 二次電池材料グループ 先進蓄電池研究開発拠点 元素戦略チームの万代俊彦主任研究員らの研究チームによるもの。詳細は、英国王立化学会が刊行する材料化学全般を扱う学術誌「Journal of Materials Chemistry A」に掲載された。
リチウムイオン電池(LIB)は希少資源であるリチウムを使用しているため、将来的な供給量の問題や環境破壊、経済格差の拡大などが懸念されている。また、エネルギー密度の問題もあり、より高エネルギー密度化が見込め、資源の制約も少ないマグネシウムを使用した金属蓄電池の実用化が期待されている。ただし、マグネシウム金属蓄電池は正極、負極、電解液材料いずれもが個別研究されている開発途上の段階にある。
また、製造に関してもマグネシウムはイオン化しやすく、空気中の酸素と反応して表面に酸化物主体の不働態を形成して不活性化してしまうため、一般的なリチウムイオン電池製造で用いられるドライルーム(相対湿度約0.60%)では、マグネシウム金属を負極材料として使用することができないという課題もあるという。
そのため、酸素に触れさせないようにするためには、電池材料の保管から電池作製までを、アルゴンや窒素などの不活性ガス雰囲気中で行う必要があるとされており、そのためには多額の設備投資が必要と考えられており、実用化に向けた障壁となっていた。
そこで研究チームは今回、マグネシウム金属を不活性化させない技術の開発に向け、さまざまな雰囲気下で同金属の電気化学特性を系統的に精査し、不活性化のメカニズムの解明に取り組むことにしたという。