NTTドコモ(以下、ドコモ)は5月12日、2022年度の決算を振り返るとともに、2023年度の業績の見通しを発表した。営業収益は前年度比で1888億円増の6兆590億円、営業利益は213億円増の1兆939億円となり、2018年度以来4期ぶりの増収増益を記録した。
法人事業とスマートライフ事業が増収増益をけん引
2022年度の業績予想に対して、営業収益は750億円、営業利益は99億円上回る結果となった。特に、ドコモが成長領域に位置付けている法人事業とスマートライフ事業が共に増収増益。一方で、コンシューマ通信事業は事前の業績予想は上回ったものの、減収減益だ。
セグメント別に振り返ると、法人事業においては特に大企業向けの統合ソリューションの拡大が収益増の要因となった。また、スマートライフ事業では金融決済やマーケティングソリューションなどが増益をけん引している。コンシューマ通信事業では、値下げによるモバイル通信サービスの収入源が減益に影響を与えた。一方で、中・大容量プランの拡大により減収幅を抑えたとしている。
2023年度はグループのシナジーを生かし成長領域を強化
2023年度の業績は、営業収益が前年度比510億円増の6兆1100億円、営業利益が701億円増の1兆1640億円を見込んでおり、2022年度に続き増収増益となる予想だ。法人事業とスマートライフ事業も引き続きさらなる拡大を見込む。コンシューマ通信事業は中・大容量プランにより減収幅を縮小、営業収益は174億円減額しながらも増益への転換を目指す。
ドコモは2022年、NTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)とエヌ・ティ・ティ・コムウェア(以下、NTTコムウェア)を子会社化した。三社のシナジーを発揮し、法人事業とスマートライフ事業の着実な成長に加えて、値下げにより減益となっているコンシューマ通信事業の増益反転によって、グループ全体で1040億円の増益を目指すとしている。
法人向け事業は大企業から中小企業にサービスを拡大
ドコモは法人事業において、7月にNTTコムウェアの経営資源の一部をNTT Comに統合する予定だ。これには、NTTコムウェアが持つ業界に特化したアプリケーション開発力やデータマネジメントのノウハウをNTT Comに統合することで、大企業向けの統合ソリューションの開発力を強化する狙いがある。
また、ドコモグループが保有するdポイント会員基盤を活用した、顧客との共創ビジネスの拡大も進める。マーケティングの課題解決にとどまらず、顧客のデータ基盤の構築や相互のデータの掛け合わせによる共創ビジネスの創出を目指すとのことだ。
同社は、法人事業において大企業向けのソリューションに加えて、今後は中小企業向けの展開にも注力する。特に、モバイルと固定通信を融合した業務効率化ソリューションを展開する。例えば、モバイル端末でオフィスの電話番号が使えるサービスや、モバイル通信を利用することで固定回線工事を不要としオフィスの開設と移転を支援するサービスなどを手掛ける。
スマートライフ事業は会員基盤を活用したマーケティング施策で成長を
スマートライフ事業では、営業収益は前年度比105億円増の1兆1250億円、営業収益は297億円増の2350億円を見込む。2022年度のマイナポイント事業やドコモでんきといった一過的な収益増の反動を受けて、増額幅は比較的小さくなる予想だという。事業としては映像やXR(VR:仮想現実やAR:拡張現実などの技術の総称)、金融などへの投資を増やす方針。
同事業では、決済決済サービスと映像配信メディア「Lemino」を軸とした一般ユーザー向けのサービスを展開する。金融決済の取扱高は11兆円まで伸長しており、今後は「d払い」を起点とした投資や保険などの金融サービスにも拡大する。
また、従来の動画配信サービス「dTV」を刷新し4月から提供を開始しているLeminoでは、早期の2000万MAU(Monthly Active Users)を目指す。このユーザー基盤を用いた広告ビジネスの展開と経済圏の強化を図るとのことだ。
さらに、同社はマーケティング支援の領域でも成長を進める。dポイント会員によるマーケティングプラットフォームを活用し、パートナー企業の課題解決に貢献するサービスを展開する。単一のID・アカウントにひもづく一貫したマーケティングソリューションを展開することで、1000億円以上の売り上げを目指す。
コンシューマ通信事業は顧客セグメントごとのサービス展開
コンシューマ向けの通信事業については、2023年度の営業収益は前年度比174億円減の3兆3700億円、営業利益は増益に転じ、110億円増の6170億円を予想。若年層やジュニア層の顧客を取り込むとともに、中・大容量プランを拡大し、値下げによるモバイル通信サービスの収入減少幅を補填する。
顧客基盤を拡大するため、セグメント別の顧客層を意識したサービス展開を加速するという。ジュニア層向けに子どもの成長を支援するデジタルコンテンツを展開するほか、若年層をターゲットとした中・大容量プラン「ahamo」のアップセル促進、ミドル・シニア層向けにはドコモ光やスマートライフサービスと連携した利便性向上を狙うソリューションを提供、といった具合だ。
同社は高品質なネットワークの提供にも取り組む。5G SA(Standalone)やネットワークスライシング技術などによる高度化を進めつつ、さまざまなユースケースの創出と、効率化および省電力化にも取り組む。さらに、こうしたネットワーク技術はグローバルベンダーとも連携しながら、「OREX」ブランドとしてOpen Ranサービスの100億円規模の収益化を目指す。
ドコモの代表取締役社長 CEOである井伊基之氏は「当社は昨年12月に重大な事故を発生させ、多くのお客様にご迷惑をおかけした。今後は障害に強いネットワークの運用に向け、システムと体制の強化を両輪で進める」と、ネットワークの安定運用と信頼性向上に向けた取り組みを強化する方針を語っていた。