トラックによる居眠り運転事故は、マイクロスリープ(瞬眠)と呼ばれる15秒未満の短い睡眠の直後に起きていることを広島大学の研究グループが解明した。実際の事故直前のドライブレコーダー映像を基に解析を行った。瞬眠やその直前に見られる行動を関知して事故を防ぐ新たな安全システムなどが開発されることを期待している。
広島大学大学院医系科学研究科の塩見利明教授(睡眠医学)らは、2016年4月から21年3月までに対物・人身事故や脱輪事故を起こしたトラックの車内カメラと車外カメラについて、事故の衝撃で破損せずに両方とも記録が残った52件の事故直前1分間の様子を1秒ごとに解析した。52件の内訳は、一般道路が32件、高速道路が20件だった。
解析の結果、一般道路でも高速道路でも、ドライバーは事故の60~40秒前までは、眠気を覚まそうとストレッチをしたり、無意識に顔や頭を触る「抗眠気行動」を取るが、それでも眠気がとれなかった場合、これらの行動が減り、事故20秒前位から体の動きが止まったり、目を閉じたり、半目になったりといった「マイクロスリープ行動兆候」が現れる。その後、15秒未満の短時間睡眠「瞬眠」が起き、事故につながるという。
車外カメラでは、これらの行動と同時に蛇行や不自然な減速といった危ない運転が見られた。事故の発生しやすい時間帯は夕方、深夜、早朝、年齢層では20~30代に好発。事故が起きた位置は高速道路では左側方(衝突)、一般道路では正面(追突)のものが多かった。
近年、普通乗用車には事故を防ぐための様々な安全装置がついていることが多いが、トラックでは作動しても車両の重さで制御できずに大事故となるケースもある。国土交通省の自動車運送事業用自動車事故統計年報(令和3年)によると、バス・ハイヤー・タクシー・トラックといった主に緑ナンバーで起きた重大事故のうち、死傷者の人数と割合の最多はともにトラックだった。
トラック業界は長時間労働や深夜勤務など過酷な労働環境にあったため、労働基準法の改正が行われ、2024年4月1日からドライバーの時間外労働の上限が年間960時間に見直される。事故の根本的な原因はドライバーの激務、なり手不足に加え、ECサイトやフリマサイトの充実等によって物流量が増加するなど社会的な背景もある。
塩見教授は今回の研究結果から、「社会状況が変わらない以上、事故の原因を完全には除去できない。根本的な原因を変えられないのなら、実態を検知するシステム作りが必要ではないか。トラックでは、抗眠気行動を起こす事故発生約40秒前を察知できる機能が搭載されれば、大きな事故にならない可能性が高い」と強調した。
これまで、居眠り運転は事故原因のひとつとして知られていたものの、ドライバーが実際にどのような睡眠関連の問題行動を起こしているのかというデータが、訴訟や動画配信サイト以外で公開されることはほとんどなかった。
寄付講座として研究のデータ提供や助成を行った福山通運(広島県福山市)は、「コロナ禍でエッセンシャルワーカーのトラックドライバーは以前にも増して労働時間が長く、睡眠時間は短いという問題を抱えている。働きやすい職場作りや社員の安全管理だけでなく、事故を起こさないという社会的意義のためにも産学連携に取り組んだ」としている。
成果は4月12日、米科学誌「アクシデント アナリシス アンド プリベンション」電子版に掲載された。