富山大学 附属病院小児科の加藤泰輔 診療助手らの研究グループは、1歳半ころの入浴時に石けん類を使用する頻度が少ない子どもは、毎回使用する子どもに比べて、3歳の時にアトピー性皮膚炎や食物アレルギーと診断される場合が多いという関連性を確認したと発表した。
同研究は、「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」の参加者を対象に、入浴時の石けん類使用頻度とアレルギー疾患の発症の関連を調査したもの。加藤 診療助手のほか、同じく富山大 医学部小児科学講座の足立雄一 教授(現所属:日本赤十字社 富山赤十字病院 小児アレルギーセンター)、同 村上将啓 病院助教、同 清水宗之氏、同 和田拓也氏、富山大 医学部公衆衛生学 𡈽田暁子 助教、同 松村健太 講師、同 稲寺秀邦 教授、福島県立医科大学医学部小児科学講座の岡部永生 助手、同 橋本浩一 准教授、同 細矢光亮 教授、JECSグループ(エコチル調査コアセンター長、エコチル調査メディカルサポートセンター代表、エコチル調査各ユニットセンター長)らで構成される研究グループによるもので、詳細は2023年4月17日、小児アレルギー研究の専門誌「Pediatric Allergy and Immunology」に掲載された。
アレルギー疾患は、世界中で小児期に最も多く見られる慢性疾患で、その多くがつらい症状を伴うとされている。また、近年「アレルギーマーチ」と言う生後間もないころにアトピー性皮膚炎を発症した後、食物アレルギーや気管支喘息など他のアレルギー疾患がまるで行進(マーチ)のように発症する現象に注目が集まっており、乳幼児期における皮膚のバリア機能保護の重要性がうたわれるようになってきた。
皮膚のバリア機能は、遺伝子タイプによって生まれつき弱い人がいるということや、乾燥や寒さといった気象条件、食事、汚染物質、皮膚刺激物質などからも影響を受けることも知られているほか、お風呂やシャワーといった日々の入浴習慣も皮膚のバリア機能に影響を及ぼすとされ、これまでもアトピー性皮膚炎の患者を対象とした研究が多数行われてきた。しかし、皮膚のバリア機能が問題となる乳幼児期の子どもを対象とした研究は少なく、入浴習慣や入浴時の石けん類の使用とアレルギー疾患の関係についてはあまり知られていなかったという。
そこで今回の研究では、子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)に参加している子ども7万4349名を対象に、入浴習慣の情報とアレルギー疾患の発症の有無に関連があるかを調査。
結果、1歳半の時にはほとんどの子どもがほぼ毎日お風呂あるいはシャワーで体を洗う習慣をもっていたという。しかし、入浴時に石けんを使う頻度は異なり「毎回使う」が9割と大多数を占め、「だいたい使う」「ときどき使う」「ほとんど使わない」とした子どもも一定数いたという。
そこで、「毎回使う」子どもを基準にした場合の、「だいたい使う」「ときどき使う」「ほとんど使わない」とした子どもにおける、3歳時点でのアトピー性皮膚炎、食物アレルギー、ぜん息の3つの疾患の診断状況も調査。
その結果、1歳半時点の入浴時の石けん類使用の頻度が少ない子どもでは、3歳時点でアトピー性皮膚炎と食物アレルギーと診断されている子が多くなる傾向があるということが分かったという。一方、ぜん息に関しては入浴時の石けん類使用の頻度との関連は認められなかったとした。
研究グループによると先行研究で、すでに皮膚に黄色ブドウ球菌が多い場合にアトピー性皮膚炎が発症しやすいといった報告があることから、今回の研究結果はアトピー性皮膚炎発症にかかわるような皮膚の細菌、あるいは皮膚に付着したアレルギー物質を石けん類で洗い流すことができなかったことなどが原因として考えられるとしている。
なお、今回の研究で扱った情報は保護者の回答する質問票により収集したもののため、記憶違いや回答ミスなどが含まれている可能性があると研究グループでは指摘しているほか、石けんにはアルカリ性、酸性、中性といった種類や、抗菌剤を含むものなどの種類があるが、種類についての情報は調べておらず、アレルギー疾患を持つ個人が「石けん類を使わなかったからアレルギーになった」ことを示す内容ではないことに注意が必要だとしている。その点を踏まえて研究グループは今後、乳幼児期の石けん類の使用でアレルギー疾患が予防できるかのさらなる調査を進めていくとしている。