新潟大学(新大)の研究グループは、細菌性肺炎において感染者の治癒力が低下する分子メカニズムを明らかにしたこと、ならびに低下した治癒力を回復させる方法についての検討結果を発表した。
同研究は、新大大院 医歯学総合研究科 微生物感染症学分野の磯野俊仁博士(日本学術振興会特別研究員)と同 平山悟 助教、同 寺尾豊 教授らの研究グループによるもの。同成果は、2023年4月28日付で国際科学誌「Journal of Biological Chemistry」の電子版にて公開された。
日本では、肺炎および誤嚥性肺炎が難治化し、高齢者を中心に肺炎で年間10万人以上が死亡しているとされる。また、高齢化に加えて抗生物質耐性菌の増加により事態の増悪化が懸念されており、一層効果的な肺炎治療法を確立する必要性に迫られている。
研究グループは、これまでに主な肺炎の原因菌である肺炎球菌の解析を進め、肺炎が重症化するメカニズムとして細菌の毒素などによりヒト組織が損傷を受けるだけでなく、細菌が免疫系を傷害し破綻した自分自身の免疫で肺組織などを破壊することを報告してきた。
今回の研究は肺炎が重症化するメカニズムの解明に向けたもので、肺炎球菌に感染させたマウスの肺組織において、分解されてしまうと上皮成長因子(EGF)と結合できなくなり、肺組織の修復(=肺炎の治癒)が妨げられてしまう肺胞上皮細胞のEGF受容体(EGFR)の調査を実施。
具体的には、マウスを実際に肺炎球菌に感染させ、6時間ごとにエラスターゼ阻害薬(シベレスタット)を投与した後、感染20時間後に、肺組織中のEGFRを検出したところ、健常なマウスと比べ肺炎球菌を感染させたマウスでは、EGFRが分解されていること、ならびに肺炎球菌感染後にシベレスタットを投与したマウスでは、EGFR量が健常なマウスと同程度であることを確認したとする。
また、細胞増殖の程度を可視化したところ、健常なマウスと比べて肺炎球菌感染マウスでは細胞増殖はほとんど観察されなかったが、肺炎球菌感染後にシベレスタットを投与したマウスでは、細胞増殖量が健常なマウスと同程度であることも確認したという。
研究グループではこれらの結果を踏まえ、肺炎球菌が感染すると組織修復を担うEGFRが分解され、EGFとの結合とEGFR活性化が阻害され、損傷部位の細胞増殖が妨げられ、肺炎が難治化することを突き止めたとするほか、抗生物質による肺炎球菌性肺炎の治療時には、シベレスタットを併用することでより効果的な治療につながる可能性が示されたと説明している。
なお研究グループは、耐性菌への対応法や新たな治療薬の開発に加え、感染を予防する新たな消毒液の開発にも取り組んでいるとしており、今後も難治化あるいは重症化した細菌性肺炎への科学的根拠に基づいた治療法の提案に取り組み続けていくとしている。