名古屋大学(名大)は5月11日、1.5nm~3nmの厚さで高い誘電率と絶縁性を兼ね備えたナノシート「Ca2Nam-3NbmO3m+1」を開発し、その積層素子で、現行の誘電体キャパシタの性能限界を突破する、174J/cm3~272J/cm3という世界最高クラスのエネルギー密度を達成したことを発表した。
同成果は、名大 未来材料・システム研究所の長田実教授、物質・材料研究機構(NIMS)の佐々木高義フェローらの共同研究チームによるもの。詳細は、米国化学会が刊行するナノサイエンスとナノテクノロジーの全般を扱う学術誌「Nano Letters」に掲載された。
誘電体キャパシタは、分極という物理現象が利用されているため、充電時間が数秒と短く、長寿命、高出力密度といった優れた特性を持つ。しかしエネルギー密度が低く、一度に多くのエネルギーを蓄積できない点が大きな課題だ。
誘電体キャパシタに蓄えられるエネルギーは、分極量と電界の積分量に関係するため、高い分極量(誘電率)を持つ誘電材料に、できるだけ高い電界を印加し、ロスなく静電エネルギーに変換できるかが、高エネルギー化の鍵となるという。そのためこれまでの誘電体キャパシタの開発では、主に高い分極量を持つ強誘電体が利用されてきた。
ところが、強誘電体は高い分極量を有するが、耐電圧(破壊電界)が小さいために高い電界を印加できず、さらにヒステリシス特性によるロスが大きいという課題があった。結果として、リチウムイオン電池に対して1桁~2桁低い10J/cm3~150J/cm3というエネルギー密度が限界だったのである。そのため、この性能限界を突破できる新しい材料や技術が求められていた。
そうした中で、研究チームが発見した常誘電体ペロブスカイトナノシートは、分極特性でヒステリシス特性のロスがなく、線形の分極特性を示し、巨大分極(高誘電率化)と高耐電圧化が同時に実現するというユニークな特性を持つ。そこで今回の研究では、蓄電キャパシタ用の誘電体として、ペロブスカイト構造を持つCa2Nam-3NbmO3m+1(m=3~6)ナノシートに注目したという。
同ナノシートは、出発原料として層状ペロブスカイト(KCa2Nam-3NbmO3m+1)が用いられ、ソフト化学プロセスにより層1枚までにバラバラに剥離することで合成される。同ナノシートは金属酸素八面体(NbO6八面体)3個から6個分を単体として取り出したものなので非常に薄く、m数を変化させることで、0.4nm単位での精密な構造制御と自在な誘電特性の制御が可能だとする。
実際、同ナノシートでは、Ca2Nb3O10ナノシート(誘電率210)を基準にして、NbO6八面体を1個増やすごとに誘電率が約80ずつ増加し、NbO6八面体6個のCa2Na3Nb6O19ナノシートでは、ナノレベルの誘電体薄膜としては最高の誘電率470が示されたという。さらに、同ナノシートはいずれも、400MV/m程度の高い耐電圧特性を併せ持っており、蓄電デバイスの高エネルギー化に好適であることが確認された。
そしてキャパシタの作製には、ラングミュア・ブロジェット(LB)法による薄膜作製技術が利用された。同法を利用することで、トランプを並べるようにナノシートを秩序正しく配列させられ、薄膜を製造することが可能になるという。
下部電極にはSrRuO3基板が利用され、LB法により同基板上にナノシートを稠密配列させ、単層膜が作製された。さらに、単層膜作製の操作を繰り返すことで、ナノシートの厚み単位で、膜厚を精密に制御した多層膜が作製された。この多層膜上に、低温スパッター法により金のマイクロ電極(直径:100mmφ)が形成され、蓄電デバイス用キャパシタとして利用することにしたという。