多くの日本企業が新年度を迎え、2023年も中盤に差し掛かろうとする中、世界的に不安定な経済環境は当分の間継続することが予測されています。しかし、このような予測すらも決して確実なものではなく、経済学者、ビジネスアナリスト、投資家、評論家など、あらゆる専門家が多様な見解を示しており、将来の見通しを立てることが非常に困難な状況が続いています。

一方、インフレ、大規模な人員削減、収益の減少、株価の下落、投資の低迷、不安定な地政学など、景気後退を示す兆候が相次いでいることには間違いありません。あらゆる規模や業種の企業が、本格的な世界同時不況や各地の経済的逆風に備え、さまざまな対策を講じ始めています。

不安定な経済状況が長引く一方で、ITRの「国内IT投資動向調査報告書2023」によると、コロナ禍によるビジネス環境の変化とDX(デジタルトランスフォーメーション)に対する意欲の高まりから、日本企業は今年も引き続きIT予算の増額に前向きな姿勢を維持すると予測されています。

また、IPAの「DX白書2023」は、日本企業のデータ利活用に関する技術の活用状況について、「データ整備ツール」「マスターデータ管理」のような基礎段階にとどまっていることが指摘されています。

実際、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進中または始動しようとしている企業やビジネスリーダーからは、「データ活用の戦略はどうすれば良いのか?」という質問を頻繁に受けます。企業がとるべきデータ活用の戦略は以下の5つになります。

(1)データ活用戦略を先延ばしにしない

景気後退期には、データマネジメントやデジタル・モダナイゼーションの取り組みを停止したり延期したりしがちですが、これは禁物です。

DXは、電球のように簡単にスイッチをオン/オフできるようなものではありません。一度始めたら、その勢いを維持する必要があります。イノベーションの変移は加速しています。長期的な目線でミッションクリティカルな変革に注力しなければ、時代の変化に取り残され、不況やパンデミックなどの経済情勢に振り回されてしまいます。

経済の成長・停滞・縮小は、周期的に訪れるものです。新型コロナウイルス感染症拡大により旅行業界が深刻な影響を受けていた真っ只中の2020年4月、アメリカン航空はインフォマティカ製品を導入しました。導入のタイミングに驚き、電話で理由を尋ねたところ、「変革は止められない」と、思わずハッとするような答えが返ってきました。

アメリカン航空は、顧客をより深く理解することの重要性を認識していました。また、たとえ事業が半年間停止したとしても、いずれ人々が飛行機の旅を再開することも理解していました。長期的な視点で投資を行い、変化を続ける顧客行動に先手を打つためには、パンデミックが去るまでじっと待っている余裕などなかったのです。

(2)データの民主化を強化する

景気後退は、個人の選択や解雇による人材の流出を引き起こします。そして、IT人材やデータチームの損失は、データマネジメントやDXにおける生産性やアクセシビリティに悪影響を及ぼします。

頻繁に使用するデータや専門領域のデータを各事業部門の社員が自ら管理できるようにすることで、社員の能力を向上させながらIT部門の負担を軽減し、リスクを最小化することができます。ローコード/ノーコードのSaaS製品やセルフサービスのソリューションを導入することで、データリテラシーのレベルにかかわらず、誰もが簡単にデータを活用し、タスクを遂行できるようになります。また、これらの新たなツールの導入は、企業文化の変革も引き起こします。

すでに多くのリーダーがデータの民主化を重要課題として捉えています。インフォマティカがWakefield Researchに委託して実施したグローバル調査「CDO Insights 2023: How to Empower Data-Led Business Resiliency(2023年度CDO調査: データ主導型のビジネス強化について)」では、半数以上(57%)の日本企業が効果的なデータの共有・民主化・活用の実現をデータ戦略における優先事項として挙げています。

  • 57%の日本企業が効果的なデータの共有・民主化・活用の実現をデータ戦略における優先事項として挙げている 資料:CDO Insights 2023: How to Empower Data-Led Business Resiliency

(3)既存のデータ人材を優先する

データマネジメントに限ったことではありませんが、人材を最大限に強化することで、ビジネスの複雑性を最小限に抑えられることを多くのビジネスリーダーに呼びかけてきました。

雇用が停止・凍結され、解雇によるスキル不足やスキルギャップが生じる景気後退期では、既存人材の力を借り、社員のスキルアップや成長の機会を創出することが鍵となります。

データチームは、最先端かつミッションクリティカルな仕事をしたいと思っています。それが何を意味するのか考え、過剰なほどコミュニケーションを取り合うことで、社員が誇りに思い、有能な人材が一員になりたいと思うような企業の文化を醸成することが重要です。

(4)データ技術スタックから無駄を排除する

私たちは経済が不安定になると、財布のヒモを固く締め、より少ないリソースでより多くのことを実現するためのクリエイティブな解決策を模索します。

多くの企業の技術スタックは肥大化しており、一時的な解決策として導入されたアプリや、プログラム、ツール、ソフトウェアなどが放置され、無駄なコストが発生し続けていることがあります。

コスト最適化の重要性が増している今こそが、既存ツールを見直し、最も価値を生み出すツールを特定し、それ以外のものを廃棄する絶好の機会です。一連のソリューションをクラウドネイティブな単一のプラットフォームに統合していない企業は、さまざまなツールを整理・統合することが必要となるでしょう。

AI/ML(人工知能/機械学習)を搭載した包括的なプラットフォームを活用することで、タスクをインテリジェントに自動化し、データマネジメントを簡素化しながらインサイトの取得を加速することができます。また、このようなプラットフォームは、データ活用の民主化を推進し、ITチームがほかのプロジェクトや優先事項に集中できる時間を確保することもできます。

(5)データセキュリティとガバナンスを強化する

悪質なサイバー攻撃の増加と経済状況の悪化の間には、相関関係があります。世界的に大規模な景気後退が生じた2008年の直後には、米連邦捜査局(FBI)に報告されたオンライン犯罪の件数が22.3%も増加しました。離職率が高まり、ビジネスが不安定になりがちな不況期は、ソーシャル・エンジニアリングなどの攻撃を受けやすい環境を生み出します。

データ侵害の平均被害額が5億円以上にも上る中、サイバー攻撃者は企業の最も大切な資産であるデータを保護するための資金や人材リソースが不十分になることを狙っています。さらに企業は、データ主権法やセキュリティおよびプライバシーに関する規制など、複雑で増え続けるさまざまな条件を満たす必要があります。これらを踏まえると、セキュリティ、ガバナンス、データリネージ機能が組み込まれたデータソリューションが必要であることは明白です。

データ戦略は、サイバーセキュリティに対する解決策ではありませんが、企業のデジタルセキュリティ対策における重要な要素の一つであるべきです。ハイブリッドやマルチクラウド環境で部門を横断した連携が広がる中、データセキュリティ、プライバシー、ガバナンスを自動化・統合するデータ活用戦略が求められています。

先に紹介したインフォマティカの調査によると、日本では86%、世界全体では55%企業が1,000以上のデータソースを扱っていることが明らかになっています。数千、数百万ものデータセットを隅から隅まで完璧に人間の目で管理することを求めるのは、非現実的かつ無責任とも言えます。

今後の数カ月で2023年の軌道は決まります。誰にもマクロ経済の未来を予言することはできません。しかし、今後どのような変化が待ち受けていようとも、顧客のニーズを満たし、ビジネス目標を達成するためには、強力で合理的なデータ戦略を持つことが不可欠となるでしょう。

著者プロフィール


インフォマティカ 最高経営責任者(CEO) Amit Walia(アミット・ワリア)

2020年1月にインフォマティカの最高経営責任者(CEO)に就任。2021年4月に、独自AIエンジン「CLAIRE」を搭載した「Informatica Intelligent Data Management Cloud (IDMC)」を発表するなど、AI分野におけるイノベーションを推進し、インフォマティカをクラウドデータマネジメントのリーダー企業へと進化させている。