東京大学 国際高等研究所 カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)は5月11日、宇宙初期の急激な加速膨張であるインフレーションを引き起こすエネルギー源となったとされる「インフラトン場」の進化について、多くのインフレーション理論で存在が指摘されている、孤立した巨視的構造の一種である「オシロン」が確かに存在したことを、シミュレーションを用いて明らかにしたと発表した。
さらに、オシロンが崩壊していく過程で生じる重力波が、欧州で計画されている地上型の「アインシュタイン・テレスコープ」や、米国で計画されている地上型の「コズミック・エクスプローラ」、宇宙で3機の衛星を用いる日本の計画「DECIGO」など、第3世代計画とされる将来の重力波望遠鏡の性能で観測可能であることも明らかにしたと併せて発表された。
同成果は、Kavli IPMUのカロイアン・ロザノフ特任研究員、高エネルギー加速器研究機構(KEK) 量子場計測システム国際拠点のウラジーミル・タキストフ シニア研究員/KEK 理論センター助教(Kavli IPMU 客員准科学研究員兼任)らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国物理学会が刊行する機関学術誌「Physical Review Letters」に掲載された。
インフレーションと呼ばれる宇宙の非常に急激な加速膨張は、宇宙初期に発生したとして、1980年代初頭に佐藤勝彦博士らによって提唱された。そして、それが起きた後に形成されたと考えられているのがオシロンである。オシロンは、インフレーションを引き起こすインフラトン場のようなスカラー場から生み出され、高周波で振動しながら長時間その構造を維持するとされている。
研究チームは今回オシロンについて調べるため、宇宙初期のインフラトン場の進化をシミュレーションを用いて研究したとのこと。その結果、実際にオシロンが形成されることが明らかにされたとする。さらに、オシロンが崩壊する過程で非常に多量の重力波が発生することも発見。そして、この崩壊過程で発生する重力波は、現在計画中の第3世代の重力波望遠鏡の性能なら観測可能であることも明らかにされた。
研究チームは、もしオシロンの崩壊過程での重力波を実際に捉えることができれば、これまで行われてきた“宇宙マイクロ波背景放射の全天観測のデータからインフレーションの理論モデルを検証する”という研究とは独立かつ補完しあう形で、インフレーションモデルを検証できるようになる可能性があるとしている。