京都大学(京大)と住友林業は5月12日、2022年3月より取り組んできた国際宇宙ステーション(ISS)での約10か月におよぶ木材の宇宙曝露実験が完了し2023年1月、試験体が地球に帰還したことを発表した。
今回の暴露実験のために宇宙に運ばれたのはヤマザクラ、ホオノキ、ダケカンバの3樹種で、地上での各種物性実験により木造人工衛星に使用する最終候補として選定された木材だという。米国航空宇宙局(NASA)や宇宙航空研究開発機構(JAXA)の検査を経て、3月に実験に用いられた木材試験体が研究チームの手元に到着。その後、外観、質量などの測定を行う1次検査を実施したところ、いずれの樹種においても木材の割れ、反り、剥がれなどなく、温度変化が大きく宇宙線が飛び交う宇宙空間という環境にあっても試験体の劣化は軽微で材質は安定して保たれていたことを確認したという。
また、木材試験体の宇宙曝露前後での質量変化を測定したところ、含水率の影響を補正した結果では、ほとんど減少していないことを確認したともするほか、3樹種間で劣化の差も確認されなかったという。
研究チームでは、極端な温度変化、原子状酸素の衝突、銀河宇宙線(GCR:Galactic Cosmic Ray)や太陽エネルギー粒子(SEP:Solar Energetic Particle)の影響など、地球上とは桁違いに過酷な環境下の宇宙空間に10か月間晒した試験体は、それらの影響により何らかの浸食が生じることを想定していたというが、実際には、そうした予想に反し外観上に極端な劣化は認められず、木材の利用拡大への可能性が示される結果を得たことから、2024年2月以降に打ち上げを予定している木造人工衛星「LignoSat(リグノサット)」に使用する樹種として、地上で実施した各種試験の結果(加工性の高さ、寸法安定性、強度など)を踏まえ、ホオノキを使用することを決定したとする。
なお、京大では今回の曝露試験のデータと1号機の運用データをこれから計画を進めるLignoSat2号機の設計や2号機で計測を検討するデータの基礎資料としていくとするほか、住友林業は試験体の今後の詳細分析を通じて、ナノレベルの物質劣化の根本的なメカニズムを解明することを目指し、それを通じて高耐久木質外装材などの高機能木質建材や木材の新用途開発に役立てていきたいとしている。