早稲田大学(早大)は5月9日、国際宇宙ステーション(ISS)日本実験棟「きぼう」搭載の高エネルギー電子・ガンマ線観測装置「CALET」を用いて、銀河宇宙線のヘリウムのエネルギースペクトルを250テラ電子ボルト(TeV)まで高精度に観測し、30TeV以上の領域でエネルギーの「スペクトル軟化」の兆候を観測したことを発表した。
同成果は、早大理工学術院 総合研究所の小林兼好主任研究員、早大 CALET代表研究者の鳥居祥二名誉教授を含めた、国内外の研究者合計80名が参加した国際共同研究チームCALET Collaborationによるもの。詳細は、米国物理学会が刊行する機関学術誌「Physical Review Letters」に掲載された。
宇宙線の生成・加速・伝搬機構は、標準モデルでは「星の核融合で生成された元素が、超新星残骸の衝撃波によって加速され、銀河磁場によって拡散的に伝播して銀河外へ漏れ出す」とされる。同モデルでは、地球で観測される宇宙線スペクトルの形状は単調な冪(べき)型だと予測されていた。
しかし、それに反して数百ギガeV(GeV)におけるスペクトルの単一冪からのズレとして、宇宙線の主成分である陽子や複数の原子核で、TeV領域に至る漸次的な「スペクトル硬化」が観測された。なおスペクトル硬化とは、冪の絶対値が小さくなる方向のスペクトル変化で、エネルギーに対する流束の減少割合が減っていくことを示す。これは標準モデルでは理解できない結果だという。
さらに、陽子ではエネルギーのより高い領域でスペクトル硬化の反対の「スペクトル軟化」も観測された。これは陽子固有なのかそれとも複数の原子核共通なのか、陽子の次に重いヘリウムでも同様の傾向があるのかが注目されていたとする。
そうした中、2021年に中国のダークマター探査計画「DAMPE実験」により、ヘリウムのTeV領域に至る漸次的なスペクトル硬化および30TeV付近からのスペクトル軟化の兆候が報告された。そこで研究チームは今回、ヘリウムの高精度解析を行い、DAMPE実験が観測した80TeVよりも高いエネルギー領域を含めた、40GeV~250TeVにおいて宇宙線ヘリウムスペクトルの高精度直接観測を試みたという。