千葉工業大学(千葉工大)は、2023年3月8日に、全長6m・直径330mm・乾燥重量120kg・ペイロード重量10kg・到達高度約20km(最終目標高度100km)という、同大学製の新型観測ロケット「C1」試作機の洋上発射実験に成功したことを発表した。

  • C1ロケットの3D図。

    C1ロケットの3D図。(出所:千葉工大プレスリリースPDF)

同成果は、千葉工大 惑星探査研究センターの和田豊非常勤主席研究員(同・大学 工学部 機械電子創成工学科 教授兼任)らの研究チームによるもの。

一般的に宇宙との境目とされているのが、高度100kmの「カーマンライン」だ(実際には大気圏はもっと遥かに高い)。千葉工大は、この高度100kmに到達することを目標として、小型観測ロケットの開発プロジェクトを2015年から進めている。その実現のため、今回、ノミナル到達高度約20kmのC1ロケットの試作機を開発し、洋上打ち上げ実験が行われることとなった。なお同ロケットの名称の由来は、千葉工大の英略称「CIT」と、「Sea」の発音の2つから、2023年3月22日に他界した同大学の松井孝典学長(惑星探査研究センター前所長)が命名したとのことだ。

C1ロケットの設計と製造は、同大学の機械電子創成工学専攻に所属する学生らが担当。また燃料には千葉工大、型善、宇宙航空研究開発機構(JAXA)によって共同開発されたハイブリッドロケット用燃料である低融点熱可塑性樹脂が用いられ、酸化剤には亜酸化窒素が採用されている。その結果、最大推力8kN、平均推力6kN、燃焼時間37秒という性能を有する。ちなみに亜酸化窒素を用いたハイブリッドロケットとしては、国内最大の大きさだとしている。

同ロケットの目的は、宇宙由来の微粒子採取を試みることだ。特に、流星群がやってくる時期には大量の宇宙塵が地球に降り注ぐため、その時期に小型ロケットを打ち上げて採取することを計画中だという。そのため、流星群の時期に合わせた柔軟なロケットの打ち上げ実験の実施が求められているとする。

そこで研究チームでは、安全性が高く、低コストで、即時発射性にも優れる、高度100kmに到達可能なハイブリッドロケットを大学主体で開発し、採集装置を宇宙空間に到達させることを予定だという。また、柔軟な打ち上げウィンドを確保することから、従来の陸上から打ち上げる方式ではなく、洋上からのロケット打ち上げ実験(1回目は2019年3月実施)や空中発射による打ち上げ実験(2022年12月実施)なども実施してきている。

2019年の打ち上げ実験は、大学で開発されたロケットとしては初の洋上打ち上げ方式で行われた。この時は、全長2m・直径150mm・乾燥重量約8kgのロケットが400mの沖合(千葉県御宿町網代湾)から打ち上げられた。その後、洋上打ち上げ実験は3回ほど繰り返し実施され、台船の揺動がロケットの打ち上げに与える影響についての評価を実施。その成果が、今回のC1ロケット洋上発射システムの構築と運用に応用されているとする。

今回の実験ではより高高度への打ち上げが目指され、成層圏(高度およそ10~50km)に到達可能なC1ロケット試作機による洋上打ち上げが実施された(今回の実験の高度目標は20km)。その際、40フィートコンテナに格納された発射台にセットされたC1ロケットに対し、洋上および上空の安全を確認後、洋上にて遠隔操作による推進剤の充填、点火、打ち上げを実施し、すべてが予定通りに行われたのちに洋上からの打ち上げに成功したという。

  • (左)打ち上げ直前の様子。(右)C1ロケットの打ち上げ時の様子。

    (左)打ち上げ直前の様子。(右)C1ロケットの打ち上げ時の様子。(出所:千葉工大プレスリリースPDF)

研究チームは、C1ロケット打ち上げ後、テレメトリの記録では高度約2.6kmまでが確認されたが、その後にテレメトリの受信ができなくなってしまったとする。撮影動画より約17秒後に目視にて燃焼が停止したものと思われる白煙が確認され、約74秒後に洋上へのロケットの落下が目視にて確認された。この結果を踏まえ、到達予想高度をシミュレーションしたところ、約6kmと算出されたという。今回の推力喪失に至った原因などについては、今後より詳細な解析を実施し、学会などで報告をしていく予定としている。

研究チームによると、今回は目標の高度20kmには到達できなかったが、2号機の開発に向けた貴重な設計指針を得ることができたという。また、成層圏へのアクセスが可能な洋上発射システムの開発とその運用が確認されたのに加え、高高度のロケットを安全に打ち上げる実験フィールドの開拓にも成功したとする。そして今後は、さらなる高高度用ロケットを目指し、2号機の開発を実施していく予定としている。

  • C1ロケットと洋上発射設備。

    C1ロケットと洋上発射設備。(出所:千葉工大プレスリリースPDF)

2号機では、惑星探査研究センターのサイエンスミッションを実施するため、10kgのペイロードを搭載予定だといい、今回の成果をもとに、年1回程度のペースで洋上発射実験を実施するとしている。

C1ロケットの概要

  • 正式名称:成層圏観測用小型ロケットC1
  • 型番:C1
  • 全長:6520mm
  • 直径:334mm
  • 質量:120kg
  • モータ:8kN級ハイブリッドロケットモータ
  • 到達高度:20km