秋田県立大学、奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)、東京工業大学(東工大)、熊本大学の共同研究グループは、土質工学の基礎杭に発想を得た根の貫入力学モデルを構築し、どのような力学条件下で根が貫入できるかを導く根の貫入基準式を導出することに成功した。

同成果は、秋田県立大学 システム科学技術学部 機械工学科の津川暁 助教、NAISTの出村拓 教授、東京工業大学の友部遼 助教、熊本大学の澤進一郎 教授、同 吉田祐樹 特任助教らによるもの。詳細は、米国の電子ジャーナル「Scientific Reports」に掲載された

植物の根は、水と栄養を獲得すると共に地上部を支えるために土中に潜り込む必要がある。先行研究では、根が土壌へ貫入するための必要条件として、根が土に入りやすい形状をしていることや、強く下方向に成長することが重要であり、主根に加えて側根や根毛などの根の側面構造の成長に由来する摩擦力も、貫入を手助けする役割をもつと考えられてきた。しかし、実際にどのような条件下で根が貫入できるのかは未だ解明されておらず、植物科学の重要な課題だったという。

研究グループは、植物の根と土の摩擦効果を理解するため品種の根を観測していたところ、若いハツカダイコンの根が土に隙間が空いていない高密度の土壌において、貫入できずに浮き上がる現象を発見。また、播種から1日目の根毛の発達していない初期根でも貫入できずに浮き上がることも分かったという。

  • 若いダイコンの根の浮き上がり現象を発見

    若いダイコンの根の浮き上がり現象を発見。(A)植物の根は間隙率の高いバーミキュライトでは貫入でき(左)、間隙率の低い豊浦砂では貫入できない(右)。(B)根は播種1日目の根毛が未成熟な状態では貫入できず(左)、播種2日目の根毛が発達した状態では貫入できる(右)。(C)植物の成長部位を表す模式図。植物の根に根毛が発達することで、根の先端部位にある成長による浮力を中和し、土中へ潜ることが可能になる (出所:NAIST)

このことから、土質工学で対象とする基礎杭の力学を根に応用することを着想し、植物が自らの成長力と根毛摩擦を組み合わせて上方向の土圧に打ち勝つことで下方向に進展することができることを明らかにしたとする。

  • 根毛の摩擦係数と貫入抵抗係数のグラフ

    根毛の摩擦係数と貫入抵抗係数のグラフ(出所:NAIST)

しかし、この力学モデルでは、根毛の成長が未成熟な場合の根の浮き上がり現象を説明することはできない。そこで研究グループは、実際の実験環境に近い力学モデルを再構築。主根の成長異方性α、静的な根毛摩擦力と静的な土圧の比β、動的な根毛成長摩擦力と動的な土圧の比γの3つの無次元パラメータを導入し、根の下方向への成長しやすさや根形状が持つ上下方向の力の拮抗をより精密に表現した。

  • 3つの無次元パラメータ

    3つの無次元パラメータ。(A)主根の成長異方性αの概念図、(B)静的な根毛摩擦力と静的な貫入抵抗力の比βの概念図、(C)動的な根毛摩擦力と動的な貫入抵抗力の比γの概念図。(出所:NAIST)

その結果、植物特有の考慮すべきポイントである、基礎杭と異なり根毛の成長によって摩擦力が増加する効果や土中に潜ることで下側の隙間がなくなり土圧が上がる効果を適切に扱うことができたとのこと。これにより、根が土中に潜るための基準式を導出することができたという。

  • 根が土中に潜るための基準式

    根が土中に潜るための基準式。根が貫入するか浮き上がるかを定量的に考察することが可能になった。(出所:NAIST)

今回の研究により、根が土中に貫入できるかどうかを無次元パラメータα,β,γにより定量的に議論することができるようになった。またこの計算で、根が土に対して一方向的に力をかけるのではなく、土を左右にかき分けて貫入することも初めて分かったという。研究グループは、この知見を利用することにより、植物科学におけるミクロな細胞成長動態と人間の目で見えるマクロな根の貫入を結びつけることができるため、植物生理学の進展に寄与するばかりでなく、生物模倣工学や新しい基礎杭の提案など他分野に波及性の高い研究手法になる可能性があるとしている。