各企業が力を入れて取り組むDXだが、長い歴史を持つ企業や多くの従業員を抱える企業において、制度やシステムを変えることは容易ではない。そんな中、多数のグループ会社や事業会社を持つ三菱重工業は、人事、財務、そしてバリューチェーンに関わる調達の仕組みを大きく刷新する取り組みを行っている。
今回は、その中でも2018年末から「新人事システム導入プロジェクト」を率い、人事の仕組みの変革に注力している三菱重工業 HRマネジメント部長の引地淳氏にお話を伺った。
基幹システムの保守期限終了を機にプロジェクトを立ち上げ
引地氏によると、新人事システム導入プロジェクト発足のきっかけとなったのは、従来使用していた人事の基幹システムの保守期限が2025年までだったことだという。これを機に、三菱重工業本社のシステムをリニューアルすること、そして同社からの出向者が大半を占める複数の事業会社においても、評価制度など人事の骨格となる部分を「標準規則」に合わせることを決定した。
「当時は、各事業会社で人事評価を含め一部の制度が異なっている状態でした。今後DXを進めていく上で、本社が策定したグループ標準規則に合わせることが前提であると考えたのです」(引地氏)
そこで2018年末、2021年10月までに本社および8つの事業会社の人事システムを移行するためのプロジェクトが立ち上げられた。
選定の決め手は拡張性と“生き残る可能性が高いこと”
プロジェクトは引地氏がプロジェクトマネジャーを務め、人事側のメンバーが中心となるチームと、システムに関連する部分を担当するICT側のチームという2つの体制で進められた。新システムに求める重要な条件のうちの1つは「従業員のスマートフォンから給与明細が見られること」だったと同氏は説明する。三菱重工業では現場で働く社員に1人1台ずつのPC貸与を行っておらず、人事に関する通知などは紙がベースとなっていたのだ。そこで給与明細の閲覧機能のあるシステムを複数ピックアップし、最終的にSmartHR社が提供するクラウド人事労務ソフト「SmartHR」の採用が決まった。
引地氏は選定理由の1つとして、SmartHRに拡張性を感じたことを挙げる。当初は給与明細の閲覧機能を重視していたが、今後のことを考えると、より多様な機能を備えたシステムを導入しておくべきだと考えたのだ。また、「(人事労務の分野に)SaaSベンダーは多数参入しているが、生き残るであろう可能性の一番高いところを選ぶのが大前提」(引地氏)であるため、システムのUIや機能面だけでなく、SmartHR社の財務状況、社長の方針やメッセージの発信の仕方などといった情報もしっかりと集め、判断したことを明かした。