米国のロケット企業、ユナイテッド・ローンチ・アライアンス(ULA)は2023年4月14日、開発中の新型ロケット「ヴァルカン」の上段の試験中に、異常が起きたと明らかにした。

試験中の機体から燃焼の液体水素が漏れ、引火したことで爆発したという。

ヴァルカンは米国の次世代ロケットのひとつで、主に軍事衛星や惑星探査機などの打ち上げに使うことを目的としている。初打ち上げは5月4日にも予定されていたが、この事故により6月以降へ延期されることとなった。

  • セントールVの爆発の瞬間の写真

    ULAのトリー・ブルーノ社長が投稿した、セントールVの爆発の瞬間の写真(動画よりキャプチャー) (C) Tory Bruno/ULA

上段「セントール」の爆発

事故は現地時間3月29日、米国航空宇宙局(NASA)のマーシャル宇宙飛行センターの試験場で発生した。

このとき、ヴァルカンの上段(第2段)にあたる「セントールV (Centaur V)」の構造試験機を使った品質試験を実施中で、液体水素を充填したり、高い圧力をかけたりといった作業が行われていた。

ULAのトリー・ブルーノ社長はTwitterで、「試験中にハードウェアに異常が発生しました。これは、飛行前に地上で可能な限り、あらゆる条件を想定した徹底的かつ厳密な検証を行っていた中で起きたものです。異常については現在調査中です」と述べた。

発生直後、事故の規模や詳細は不明だった。しかし、4月8日に米国のニュースサイト「Ars Technica」が、試験台から大きな炎が立ち上がる様子が写った写真を報じた。同紙によると、この写真は別の宇宙企業「ブルー・オリジン」から提供されたものだとしている。同社もマーシャル宇宙飛行センターの別の試験台を借りており、そこに設置していたカメラに偶然写り込んだものだという。

そして14日になり、ブルーノ氏は自らのTwitterで、爆発の瞬間が映った映像を公開した。ブルーノ氏は「この映像には試験台(リグ)の外側が映っており、その中にセントールVの試験品が入っています(映像では見えません)。水素漏れが起き、リグ内に水素が蓄積された状態で、着火源があったことで急速な燃焼が起きました。そして、大きな圧力で前方ドーム部が破損し、リグが損傷しました」と説明している。

爆発した機体は、実際の打ち上げに使うハードウェアではないものの、打ち上げ前に事故の原因などを究明する必要があるとしている。

これまで、ヴァルカンの初打ち上げは5月4日に予定されていたが、ブルーノ氏によると「6月か7月になるだろう」としている。

ヴァルカンの1号機は「Cert-1(first certification)」というミッション名で呼ばれており、米ベンチャーの「アストロボティック(Astrobotic)」が開発する月着陸機「ペレグリン(Peregrine)」のほか、Amazonの宇宙インターネット衛星「プロジェクト・カイパー」の試験機などを搭載して打ち上げることになっている。

この3月には、ロケットを発射台に立て、第1段と第2段に推進剤を充填し、打ち上げ直前までの手順を確認、検証する試験に成功していた。

ULAはヴァルカンについて、Cert-1を含めて2回の試験飛行によって認証を行ったのち、開発を完了して運用段階に移ることを計画している。すでに米宇宙軍の軍事衛星などの打ち上げも受注している。

これまでは、2023年中にも運用に移る予定だったが、今回の事故で初打ち上げが遅れたことで先行きは不透明となった。

  • 今年3月、発射台で打ち上げのリハーサルを行ったヴァルカン・セントール

    今年3月、発射台で打ち上げのリハーサルを行ったヴァルカン・セントール (C) ULA

ヴァルカン・セントール

ULAは2006年に、ボーイングとロッキード・マーティンが共同で設立したロケット企業で、「アトラスV」と「デルタIV」という2種類のロケットを運用している。

ヴァルカン・セントール(Vulcan Centaur)は、これらの後継機として開発中の大型ロケットで、米国宇宙軍による米国の政府機関の衛星打ち上げの自立性を保証することを目的とした「国家安全保証宇宙打ち上げ(National Security Space Launch)」プログラムに合致する性能をもっており、主に軍事衛星や惑星探査機などの打ち上げに使うことが見込まれている。

ロケットの全長は61.6m、直径は5.4m。機体は2段式で、1段目は液化メタンと液体酸素を推進剤とする。ロケットエンジンは、ブルー・オリジンが開発、供給する「BE-4」エンジンを2基装備する。

1段目の周囲には固体ロケットブースターを装備でき、装着基数を変えることで打ち上げ能力を変えることができる。これにより、小型衛星の大量打ち上げから、7t級の静止衛星の静止軌道への直接投入まで、さまざまな衛星の打ち上げ需要に柔軟に対応できるようになっている。

2段目にあたるセントールVは、液体水素と液体酸素を推進剤とする。現在のアトラスVの上段に使われているセントールIIIを大幅に改良したもので、2.5倍のエネルギーと、約40%の運用可能時間の向上など、性能が向上している。その反面、タンクが薄いステンレス製の、いわゆる「バルーン・タンク」構造である点は同じで、取り扱いが難しいという短所を受け継いでいる。

ヴァルカンの開発は2014年から始まり、当初は2019年の初打ち上げを目指していた。しかし、主にブルー・オリジン製のBE-4の開発が遅れたことで、初打ち上げの時期も遅れ続けている。

  • 打ち上がるヴァルカン・セントールの想像図

    打ち上がるヴァルカン・セントールの想像図 (C) ULA

参考文献

・Tory BrunoさんはTwitterを使っています: 「Outside of the test rig/ stand. Test article is inside (you can’t see it). Hydrogen leak. H2 accumulated inside the rig. Found an ignition source. Burned fast. Over pressure caved in our forward dome and damaged the rig.」 / Twitter
VulcanNew photo reveals extent of Centaur V anomaly explosion [Updated] | Ars Technica