プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会は4月27日、「フリーランス新法」(以下、新法)に関する記者会見を開いた。

フリーランス新法とは、2023年2月23日に法案成立が閣議決定され、同年4月7日の衆議院本会議で全会一致で可決された「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律案(フリーランス・事業者間取引適正化等法案)」のことだ。4月27日には参議院内閣委員会でも全会一致で可決された。

会見では、2017年からフリーランスの契約ルール整備を政府に働きかけてきた同協会から見た新法の要点と、フリーランスの契約トラブルの実態が解説された。

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「取引の適正化」と「就業環境の整備」を求める

新法ではフリーランスに仕事を発注する事業者(発注者)に対して、契約時に業務内容や報酬額を書面、電子メール・チャットなどで明示することを義務づけるほか、発注した仕事の成果を受け取った日から60日以内に報酬を支払うことを義務化する。

また、報酬を相場よりも著しく低く定めることや、正当な理由のない受領拒否・返品・報酬減額などを禁止する。

このほか、発注者には育児・介護と両立して業務が行えるよう配慮することや、ハラスメント行為に関する相談対応などの体制整備を義務づける。育児・介護への配慮では、スケジュールや納期の調整、リモートワーク対応許可など健康面も対象となるという。

違反した事業者には、公正取引委員会などが助言、指導、報告徴収、立入検査、勧告、公表、命令を行う。命令違反や検査拒否に対しては50万円以下の罰金を科す。

  • フリーランス新法の条文(会見資料より一部抜粋)

    フリーランス新法の条文(会見資料より一部抜粋)

プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会 代表理事の平田麻莉氏は、「従来のフリーランス向けのガイドラインは実効性に欠け、下請法は資本金1000万円以下の会社は対象外となるなど、フリーランスの契約ルールにまつわる法整備に課題があった。新法では、発注業者に対して取引の適正化と就業環境の整備を求めている点が特徴だ。フリーランスが自律した事業者として企業などと対等に関係性を構築できる一方、過度な規制で自由取引が損なわれるのを避けるべく行政介入が最低限となるよう提言してきた」と語った。

  • プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会 代表理事 平田麻莉氏

    プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会 代表理事 平田麻莉氏

平田氏によれば、フリーランスの契約トラブルは企業だけでなく、フリーランス同士でも起こることが多いという。

例えばIT業界では、営業力のあるエンジニアが企業から数百万円単位の業務を受注し、他のエンジニアに仕事を委託するような仕事のあっせんは珍しくない。しかし、発注元の企業からの支払いがなく、仕事を受けたエンジニアがエンジニア仲間に支払いが行えないといったケースは少なくないという。

「新法の取引条件の明示義務は、そうしたフリーのエンジニア同士の取り引きにも適用され、任意交渉の際の根拠となるため、司法手続きや行政上の措置の前段階での解決促進も期待される」と平田氏。

取引条件の明示で報酬・発注トラブルを回避

会見では、フリーランスの取引トラブルなどについて弁護士が無料で相談を受ける「フリーランス・トラブル110番」に寄せられた取引トラブルの事例が紹介された。

令和4年度(2022年4月~2023年3月)に同窓口に寄せられた相談件数は6884件で、令和3年度(4072件)に比べて増加傾向にあったという。相談が多かったのは運送、システム開発・Web制作関係、建設、デザイン関係など、フリーランスの母集団が多い業種だ。

IT業界のトラブル事例としては、Androidアプリの開発契約のケースが紹介された。同ケースでは、フリーランスのエンジニアが企業とアプリ開発契約を結んで開発を進めたものの仕様が曖昧でやり直しの要求が多く、企業の高圧的な態度や自身の力量不足などを考慮し、契約を途中で終了しようとしたところ応じてもらえなかったという。

日比谷タックス&ロー弁護士法人 弁護士の堀田陽平氏は、「事前に書面でやりとりを交わしていない場合、アプリやシステムの開発契約は民法上、どの契約に相当するか微妙なところで、最終的には当事者間の話し合いに発展するケースが多い。成果物に報酬を支払う請負契約の場合は受注者から一方的な契約解除を申し立てられない」と指摘した。

  • 日比谷タックス&ロー弁護士法人 弁護士 堀田陽平氏

    日比谷タックス&ロー弁護士法人 弁護士 堀田陽平氏

フリーランスの契約トラブルでは、報酬や発注内容の変更が原因となることが多いそうだ。それらのトラブルは取引条件の曖昧さが原因となることが多い。

取引条件の明示では、双方参照な形でエビデンスを残すことが重要になる。堀田氏によれば、契約書、発注書のひな形に限らず、箇条書きやメールでの確認なども根拠となるそうだ。

最後に堀田氏は、「中小、零細企業の負担が重いのでは、という懸念もあり得るが、新法はフリーランスを保護するものではなく取引適正化法で、いわば『当たり前のことを当たり前に』という規制だ。取引条件が明示されることでトラブルの未然防止や早期解決が期待される。また『契約解除の予告義務により『明日から来なくてよい』という事態も防止できるだろう。一方、フリーランスも責任をもって仕事を受注するべきで、交渉や契約に関するリテラシーの向上も求められる」と総括した。