SiCなどのワイドバンドギャップ(WBG)デバイスは、最新のアプリケーション、すなわち自動車や再生可能エネルギーに必要不可欠です。私たちの世界が持続可能なエネルギー源(主に電気)に移行するに伴って、効率の重要性がかつてないほど高まっています。

スイッチモードの効率を向上させる方法の1つは、銅損失とスイッチング損失を低減することです。しかし、この課題に対処するには、DCバス電圧が上昇しているので、半導体技術も歩調を合わせて進化する必要があります。これらの技術は企業にとって、また二酸化炭素削減の取り組みを推進するためにも重要です。

本稿では、最新アプリケーションの課題に対応するために、次世代SiCデバイスがどのように進化しているかについて考察します。また、成功を維持するのに、堅牢なエンドツーエンドサプライチェーンがどれほど重要かについても検討します。

多くのアプリケーション分野において、さまざまな推進力が技術の成長を加速させています。産業用および車載用という最も重要な2つの市場を見ると、効率の向上、フォームファクタ、イメージセンシングを使用したセンシングの改善が支配的な主要トレンドとなっています。

産業分野では、MOSFETやパワーモジュールの進歩により、幅広い産業システムのエネルギー効率やシステムコストの改善が進んでいます。それによって特にメリットがあるのが、EV充電インフラおよびソーラなどの代替/再生可能エネルギーアプリケーションの2つの分野です。 コストと性能は、多くの産業用アプリケーションに共通する要素です。設計者は、ソーラインバータのサイズを抑えて、より多くの電力を供給することや、エネルギー貯蔵に伴う冷却コストを削減する課題に直面しています。低コストでの充電は、電動化乗用車を普及させるための入り口と考えられています。しかし、重要なことは、追加冷却なしで、DCウォールボックスやDC急速充電による高速な充電能力を実現することです。

自動車分野では、効率は、車載電子機器のサイズ、重量、コストだけでなく、車両の航続距離にも密接に関連します。ここで、EV/HEVのIGBTパワーモジュールにSiCソリューションを導入すると、車載CPU、LED照明、ボディエレクトロニクスにおいてパワーマネジメントの強化で得られるメリットに加え、性能の向上が実現します。

トラクションインバータは、車両の全体的な効率に影響を与え、それによって航続距離も左右されるため重要な要素です。運転プロフィールを考慮すると、小型乗用車は大半の時間を軽負荷状態で走行するため、IGBTソリューションよりもSiCの方が効率向上のメリットが大きいことが理解できます。また、オンボードチャージャ(OBC)はできるだけ小型化することが必要です。小型フォームファクタは、高いスイッチング周波数を可能にするWBGデバイスでのみ実現できます。エネルギーを節約するほど総走行距離が延長され、航続距離に対する不安を和らげることができます。

最新アプリケーションでのSiC技術の利点

自動車や産業用アプリケーションの電力変換は、効率的で変換ロスが少ない半導体ベースのスイッチングデバイスとダイオードに依存します。そのため、半導体業界では、特にIGBT、MOSFET、ダイオードなど、電力アプリケーションに使用されるシリコン系半導体デバイスの高性能化に取り組んできました。加えて、電力変換トポロジの変革も相まって、かつてないほどの性能を達成できたのです。

  • SiC技術の利点を必要とするアプリケーション

    図1:SiC技術の利点を必要とするアプリケーション

既存のシリコン系半導体デバイスでは、効率向上の追及が限界に達しているため、新しい材料が求められています。SiCやGaNなど、いわゆるワイドバンドギャップ(WBG)材料は、その将来に大きな期待が寄せられています。より高い性能、密度、信頼性を備えた電気システムに対する要求が、SiC技術の技術的限界を押し上げています。

ミッションプロフィールが自動車用トラクション、ソーラーインバータ、電気自動車用充電器のどれであっても、SiCベースのMOSFETやダイオード製品は、既存のSiベースのIGBTや整流器よりも優れた性能とシステムレベルでのコスト削減を実現します。SiCのワイドバンドギャップ特性により、シリコンよりも高い臨界電界が可能になり、1700Vや2000Vなどの高いブロッキング電圧能力を実現しています。また、SiCは本質的にSiデバイスよりも電子移動度と飽和速度が高いため、周波数およびジャンクション温度がかなり高くても動作し、どちらも非常に有益です。さらに、SiCベースのデバイスは、高い周波数において比較的低い損失でスイッチングできるため、磁気部品やコンデンサ類などの関連受動部品のサイズ、重量、コストを削減することができます。

  • 電力システムにおけるSiCなどのワイドバンドギャップ材料の利点

    図2:電力システムにおけるSiCなどのワイドバンドギャップ材料の利点

伝導損失とスイッチング損失が低いということは、SiCベースの電力ソリューションでの発熱が少ないことを意味します。これは175℃という高いジャンクション温度(Tj)で動作可能なため、ファンやヒートシンクなどの熱緩和の必要性がきわめて低くなり、システムのサイズ、重量、コストが削減され、スペースが制約される困難なアプリケーションでも高い信頼性を確保できます。

高電圧デバイスの必要性

SiCのワイドバンドギャップ特性により、シリコンよりも高い臨界電界が可能になり、1700Vや2000Vといった高いブロッキング電圧能力が実現されます。所定のワット数に対して、電圧が高くなると、全体的に必要な電流容量が低下し、それによって全体の銅損が減少します。

太陽光発電(PV)システムなどの再生可能エネルギーアプリケーションでは、効率を高めるためにPVパネルからのDCバス電圧が600Vから1500Vに上昇しています。同様に、小型乗用車では400Vバスから800Vバス(場合によっては1000Vバス)に移行し、効率の向上と充電時間の短縮が図られています。以前は、400Vのバス電圧に750V定格のデバイスが使用されていましたが、これらのアプリケーションで信頼性の高い動作を実現するために、現在では1200V、さらには1700Vといった、より高い電圧が必要になっています。

最新技術

オンセミでは、このような高電圧化のニーズに応えるために、高速スイッチングアプリケーションに最適化された1700V M1プレーナ型EliteSiC MOSFETデバイス製品群を開発しました。入手可能な最初のデバイスの1つが「NTH4L028N170M1」で、1700VのVDSSと-15/+25Vの拡張VGSを備えています。このデバイスは28mΩという優れた標準RDS(ON)値を実現しています。

新しい1700V MOSFETは、175℃までのジャンクション温度(Tj)で動作可能なため、ヒートシンクを大幅に小型化するか完全になくすことができます。NTH4L028N170M1では、4番ピン(TO-247-4Lパッケージ)がケルビンソース接続になっており、ターンオン時の電力損失とゲートノイズが改善されます。また、NTBG028N170M1などのデバイスのパッケージ寄生をさらに低減するD2PAK–7Lパッケージも用意されています。

  • オンセミの1700V EliteSiC MOSFET

    図3:オンセミの1700V EliteSiC MOSFET

EV充電および再生可能アプリケーションでの信頼性の高い補助電源ユニット向けに、TO-247-3LおよびD2PAK-7Lパッケージに収納された1700V 1000mΩ SiC MOSFETが間もなく登場します。

オンセミは、MOSFETと併せて1700V SiCショットキダイオード製品群も開発しました。この定格により、D1ファミリのデバイスでは、VRRMとダイオードのピーク反復逆電圧との間の電圧マージンが大きくなります。特に、新しいデバイスは、低VFM、最大順方向電圧、高温下でも優れた逆方向リーク電流を実現しており、設計者は高温下で安定した高電圧動作を達成できます。

  • オンセミの1700Vショットキダイオード

    図4:オンセミの1700Vショットキダイオード

新しいデバイス(NDSH25170A & NDSH10170A)は、TO-247-2Lパッケージで提供されます。また、ベアダイとしてパッケージのない100Aバージョンも用意されています。

サプライチェーンの考察

部品の調達がサプライチェーンの妨げになっている分野も存在し、新しいデバイス/テクノロジを選択する際は、供給能力を考慮することがきわめて重要です。顧客への安定供給を実現し、事業の成長を支えるために、オンセミは最近GTATを買収しました。この買収によりサプライチェーンの強化を図るだけでなく、オンセミがGTATの技術的な経験を活用できるようになります。

現在、オンセミはSiCブールの大量成長、基板、エピタキシ、デバイス製造、クラス最高級の統合モジュール、ディスクリートパッケージソリューションなど、エンドツーエンドの供給能力を持つサプライヤとなっています。

今後数年間に予想されるSiCの成長をサポートするために、オンセミは基板事業の能力を5倍に拡大し、デバイスとモジュールの生産能力を2023年までに全拠点で2倍にするための大規模な投資を計画しています。続いて、2024年までに再び生産能力をほぼ2倍にし、将来的にはそれをさらに倍増する計画です。

まとめ

SiCは、自動車、再生可能エネルギー、産業用など課題の多い最新アプリケーションのニーズ、特に電力密度や熱的要件に対するニーズを満たすことができる性能を備えています。

この技術はまだ十分には成熟していませんが、常に進化を続けており、主要なアプリケーション分野では、継続的な進化と進歩が見られるため、SiCもこうしたニーズの高まりに応えるために進化する必要があります。その一例が高電圧化に対する要求で、オンセミは新しい1700V SiC MOSFETとダイオードでこれに応えました。また現在、ソーラー、ソリッドステートトランス、eCircuitブレーカなどの新しいアプリケーションをサポートする2000V SiC MOSFET技術を開発しています。

著者プロフィール

Ajay Sattu
onsemi