米国CHIPS and Science ACT of 2022(CHIPS法)の執行を担う米商務省傘下の国立標準技術研究所(NIST)は、CHIPS法で推進される半導体研究開発プログラムの中核的研究機関となる予定の「National Semiconductor Technology Center(NSTC:国立半導体技術センター)」のビジョンと戦略に関するレポート「NSTCのビジョンと戦略」を公表した。

米商務省は、半導体の研究、設計、エンジニアリング、および高度な製造における米国のリーダーシップを補助し、米国の競争力を高めることを目的にNSTCの創設を目指しているが、半導体製造強化のための補助金割り当てが優先事項となっているため、NSTCの組織化や人選が遅れており、資金提供は今秋以降になる見込みである。

NSTCが掲げる3つ目標

同レポートでは、NSTCが将来の半導体チップと技術を開発する米国の能力をどのように加速させ、グローバルイノベーションリーダーシップを守るかが説明されている。それによると、以下のような3つの目標が掲げられている。

  1. 半導体技術における米国のリーダーシップを拡大する。米国で最新の半導体技術を設計、試作、試験運用することは、将来のアプリケーションと産業の基盤を提供し、国内の半導体製造エコシステムを強化する。
  2. 設計アイデアから商品化までの時間とコストを削減する。NSTCは、半導体および関連製品の設計、試作、製造、パッケージング、およびスケーリングのための共有施設と専門知識を活用し、米国のイノベーターに経済と国家安全保障を前進させる重要な能力を提供する。
  3. 半導体の人材開発エコシステムを構築、維持する。NSTCは、科学者、技術者を含む技術労働力を拡大するための調整機関およびセンタオブエクセレンスとして機能する。NSTCの労働力プログラムは、技術者のトレーニングおよび再教育の拡大をサポートする。

NSTCのプログラムは、半導体エコシステム全体(ファブレス、研究機関、大学、州および地方政府、国立研究所、ファウンドリ、デバイスメーカー、製造装置ベンダ、材料サプライヤ、労働組合、投資家など)を対象とし、新規材料やプロセス技術へのアクセス、デジタル資産や設計ツール、チップレットの備蓄、新興企業のインキュベーション支援などのサービスを提供することで、半導体業界のニーズを満たすことを目指している。また、業界のグランドチャレンジ、ロードマップ作製と標準化活動、人材教育と技術交流プログラムに参加する機会も提供するほか、学術および業界パートナーと協力して全国に関連技術センターを設置し、前例のない研究と革新のネットワークを促進するという。

SIAが今回のレポート内容に賛意を表明

今回のNSTCのビジョンと戦略について米国半導体工業会(SIA)は、プレジデント兼CEOのJohn Neuffer氏が「今回のレポートは、CHIPS法の基礎であるNSTC設立に向けた貴重な一歩である。具体的な設立作業の詳細はまだ検討中であるが、業界のリーダーの意見やSIAの推奨事項が反映されていることは喜ばしい。SIAは、商務省や将来のNSTCのリーダーらと協力して、投資収益率を最大化し、多くの人々にとって米国の半導体生産とイノベーションを加速させるようにCHIPS法が確実に実施されることを楽しみにしている」とコメントしている。

  • 「米国国立半導体技術センター(NSTC)のビジョンと戦略」と題したレポートの表紙

    米NISTが発行した「米国国立半導体技術センター(NSTC)のビジョンと戦略」と題したレポートの表紙