ピロリ菌(ヘリコバクターピロリ)感染と遺伝の要因が組み合わさると、胃がんにかかるリスクが大幅に高まることが分かった。理化学研究所などの国際研究グループが独自のゲノム(全遺伝情報)解析手法により、胃がん患者群と比較対照群の大規模データを詳しく比較して明らかにした。成果は診断精度の向上、原因の遺伝子を標的とした治療法の開発、予防策などにつながるという。

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    研究グループはピロリ菌感染と遺伝要因、それらの組み合わせによる胃がんのリスクを調べた(理化学研究所提供)

胃がんの原因は、環境の要因であるピロリ菌感染がよく知られているほか、遺伝の要因もあるとされる。ただ後者のリスクの詳細は分かっていなかった。そこで研究グループは、胃がんのリスクに関連する遺伝子の特定や、環境要因と遺伝要因に加え、両者を組み合わせたリスクの度合いの解明に挑んだ。

日本人を対象としたゲノムと健康情報のデータベース「バイオバンク・ジャパン(BBJ)」と、「愛知県がんセンター病院疫学研究(HERPACC)」の、胃がん患者計1万1859人、がんにかかっていない比較対照者計4万4150人の情報を解析した。その結果まず、9種類の遺伝子が胃がんのリスクに関連することなどを明らかにした。

飲酒や喫煙、ピロリ菌感染といった環境の要因でDNAの二重らせん構造は損傷してしまうが、細胞にはこれを直す「相同組み換え修復」と呼ばれる機能がある。ピロリ菌が持つタンパク質「CagA(キャグエー)」はこの修復の仕組みを破綻させ、変異の蓄積を誘発して胃の細胞をがん化させる。

胃がんのリスクに関連する9種類の遺伝子のうち、4種類がこの相同組み換え修復に関わっている。研究グループはこれらの変異の有無と、ピロリ菌感染の有無を組み合わせて胃がんのリスクを算出した。(A)変異がなくピロリ菌も陰性のケースに比べ、(B)変異ありで陰性だと1.68倍、(C)変異なしで陽性だと5.76倍、(D)変異ありでかつ陽性だと22.45倍となった。つまり、変異と感染が組み合わさると、それぞれが単独の場合に比べリスクが大幅に高まることが分かった。

こうした結果から研究グループは、相同組み換え修復機能に関わる遺伝子に生まれつき変異がある場合、CagAがより強く働き、胃がんのリスクが高まっている可能性があるとみている。

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    病気の原因となる遺伝子の変異(病的バリアント)とピロリ菌感染、それぞれの有無を組み合わせて算出した胃がんのリスクの比較(理研提供)

次に、変異とピロリ菌感染の有無を組み合わせ、85歳までのリスクの累積を求めた。すると、ピロリ菌陰性の人は変異の有無にかかわらず5%未満にとどまった。その一方、陽性の人では、変異を持たない人が14.4%であるのに対し、変異を持つ人は45.5%となり、大差がついた。

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    病的バリアントとピロリ菌感染の有無を組み合わせた、85歳までの胃がんの累積リスク。ピロリ菌陽性の場合に、病的バリアントの有無により大差がついた(理研提供)

一連の結果から、ピロリ菌感染と遺伝子変異の要因が組み合わさることで、胃がんのリスクが大幅に高まることが分かった。研究グループは過去に、ピロリ菌感染の有無を問わず、4種類の遺伝子のうち2種類の変異を持つ人について調べ、85歳までの累積リスクを20%程度と報告していた。今回の研究で、ピロリ菌感染の有無まで考慮することで、リスクが大きく変わることが鮮明になった。

研究グループの理研生命医科学研究センター基盤技術開発研究チームの碓井喜明特別研究員は会見で「相同組み換え修復機能に関わる遺伝子の変異を持つ人は、ピロリ菌感染の検査や除菌が特に重要かもしれない」と述べた。ただ、他の遺伝要因や環境要因でリスクが異なる可能性、除菌の効果やタイミングなどについて、さらに検証が必要という。

研究グループは理研、愛知県がんセンター、岡山大学、東京大学、微生物化学研究所、国立がん研究センター、佐々木研究所付属杏雲堂病院、オーストラリア・QIMRベルクホーファー医学研究所で構成。成果は米医学誌「ザ・ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン」の電子版に3月30日に掲載された。

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