メタンを酸化してメタノールに効率よく変える鉄錯体触媒の開発に、筑波大学数理物質系の小島隆彦教授(錯体化学・酸化還元化学)らの研究グループが成功した。メタンは地球温暖化の原因物質の一つだが、メタンを原料とするメタノールは化学原料・農薬・塗料や医薬原料など幅広い分野に用いられている。気体であるメタンを簡単に液体のメタノールにして運搬できれば、環境負荷の低いシステムの構築につながる。
メタノールは一酸化炭素に水素を加える方法など、いくつかの方法で工業的に生産されているが、いずれの方法も高温や高圧が必要だ。常温・常圧だと回収率が低いなど、実験室内で簡単に、かつ効率よく再現する方法がなかった。
小島教授はメタンが水に溶けにくく(疎水性)、一方でメタノールは水に溶けやすい(親水性)ことに着目し、対照的な振る舞いを起こすメタンとメタノールの間に緩衝材となるような物質が必要と考えた。水を嫌う性質(疎水場)を持つことで知られる芳香族炭化水素のアントラセニル基を鉄錯体の周りに配置できればいいのではないかと思いつき、安定した配置の「鉄四価オキソ錯体」をつくった。
この鉄錯体を使って水温50度、約10気圧の温和な条件で3時間反応させたところ、触媒1分子が、500個のメタン分子に反応(触媒回転数500回)、415個(83%)のメタノール分子と85個(17%)のギ酸分子を生成した。過剰な酸化でできる生成物を抑えて高い割合でメタンをメタノールに変換でき、疎水場を持たない鉄錯体より性能が高いことを確かめた。
今回開発した鉄四価オキソ錯体は、水とアセトニトリルを溶かした水溶液中(体積比95対5)で、メタンだけを選択的に取り込むことができる。メタンがメタノールに変わると親水性になるため、疎水場からすぐに飛び出し、過剰な酸化を防げる仕組みだ。一連の触媒の働きを、小島教授は魚釣りになぞらえて「キャッチ・アンド・リリース機構」と名付けた。
小島教授は「今回の結果によって、別の難しいといわれる反応にも金属錯体が役に立つのではないかと考えている。水の浄化など、有害物質を効率的に集める方法を確立していきたい」と話している。
研究グループには九州大学大学院の吉澤一成教授らも加わった。研究は科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業(CREST)、科学研究費補助金などの助成に基づいて行い、論文は英科学誌「ネイチャー」オンライン版に4月5日掲載された。
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