TSMCは4月20日、2023年第1四半期の決算説明会を開催し、売上高が前年同期比3.6%増の5086億3000万NTドル、ドルベースでは同4.8%減の167億2000万ドル、純利益が同2.1%増の2069億9000万NTドルだったと発表した。
一見、為替の問題以外、好調に見えなくもないが、1月ならびに2月は好調であったものの、3月単月で見ると前年同月比15.4%減と2桁のマイナス成長となっており、先行きに不透明感がでている。
2023年第2四半期の業績はさらに低下見通し
TSMCの副社長兼最高財務責任者(CFO)であるWendell Huang氏は、「2023年第2四半期は、顧客のさらなる在庫調整の影響を受けると予想している」として、第2四半期の業績見通しを、売上高が152億~160億ドルと、売上総利益率52~54%、営業利益率39.5~41.5%と第1四半期よりも低迷する予想を示している。
また、同社のC.C.Wei(魏哲家)最高経営責任者(CEO)は、「経済動向とエンドマーケットの低迷を受け、2023年通年の連結売上高はドル建てで前年比1〜6%減と予測している」と述べ、2023年1月時点の小幅ながらもプラス成長の予測から、リーマンショックの影響を受けた2009年以来、14年ぶりとなるマイナス成長の予測を出した。
さらに、「ファブレス業界は2022年第4四半期(10〜12月)も在庫水準が上昇し、年末段階の在庫水準がTSMCの予想以上だった上、中国のゼロコロナ政策終了後の需要回復も遅れている。そのため、在庫調整が予想以上に長引いており、健全な水準を取り戻すのは第3四半期(7〜9月)になると予想している。メモリを除く2023年の半導体市場は前年比4〜6%減、うちファウンドリ市場は同7〜9%減」と1月時点の予測(メモリを除く半導体市場全体4%減、ファウンドリ市場3%減)からさらに下方修正をする一方で、下半期に業績が好転する期待を示した。
2023年の設備投資額(320~360億ドル)は変更なし
2023年の設備投資については、半導体市況の悪化を受けて300億ドル以下に引き下げるとの見方が出ていたが、Wei氏は「320億〜360億ドルで変更はない」と語る一方で、「設備投資については、将来の成長を見越して行っているが、短期的な不確実性を考慮して、引き続き慎重に事業を管理し、必要に応じて引き締める」と述べた。
TSMCがASMLへのEUV露光装置の発注を削減すると一部メディアが報道したことに関する機関投資家の質問には、CFOのWendell Huang氏が「個別のサプライヤに関する質問には(従来通り)コメントしない」と答えている。
このほか、Wei氏は、台湾における度重なる電気料金の値上げにも触れ、利益を圧迫する要因になっていると述べたほか、建設が進む熊本工場(JASM)に関しては、「総設備投資額は約80億ドルで、その5割を日本政府から受け取る予定である。2024年の終わりに生産を開始する計画であり、日本政府からの補助金支給は、ファブの建設の進捗状況に基づいて決定される」と述べている。
米アリゾナ州で建設中のファブについては、「最初のファブは2024年後半にN4(4nm)プロセスで生産を開始する予定である。顧客からの需要と米国政府の支援レベルに基づいて、車載向けのスペシャルティプロセスファブ建設の可能性を評価するために、米国顧客やパートナーと協力している」と述べた。中国ファブに関しては、「中国の顧客をサポートするために、計画どおり南京で28nmラインを拡張しており、引き続きすべての規則と規制遵守して稼働させる」と述べた。
台湾ファブに関しては、「台湾への投資を継続し、顧客の成長をサポートする生産能力を拡大している。高雄ではファブの建設が続いているが、以前の28nmの拡張計画を調整して、より高度なノードの容量拡張に焦点を当てており、今後も柔軟に対応していく」と述べた。これに対して、機関投資家から「高雄での28nm生産計画を撤回する理由は何か?」との質問が出たが、Wei氏は「最初は28nmの需要が高いため、高雄を検討する必要があったが、28nmファブに関しては、日本の熊本にファブを新設、そして中国の南京でもファブを増設しているほか、第3棟目をドイツに建てることを検討しており、もはや高雄に28nmを追加する必要はなくなったと判断した。高雄は台南にも近く、いずれ台南のファブ群を補完する方向で検討する」と述べている。先般、欧州CHIPS法がEU理事会や議会で承認されたこともあり、ドイツに28nmファブを建設することで調整を進めているようだが、明言は避けた。
売り上げの半数は先端プロセスから
第1四半期の売り上げをプロセス別に見ると、5nm品が 全体の31%、7nm品が同20%となり、先端プロセス(7nm以下のプロセス)の売り上げが全体の5割を超える結果となった。
また、用途別売上比率は、HPC向けが全体の44%、スマートフォン(スマホ)向けが34%とこの2分野だけで全体の約8割を占め、残りがIoTが9%、車載が7%、データセンターが2%、その他4%となっており、車載向けのみ前四半期比でプラス成長を達成している。
このほか、国・地域別売上高比率は、トップが米国の63%、次いで中国の15%、アジア・太平洋8%、日本ならびにEMEAがそれぞれ7%となっている。中国と日本が売り上げ比率を伸ばしている点が注目される。
2nmプロセスは2025年に量産予定
Wei氏は次世代プロセスである2nmプロセス(N2)について、「技術開発は順調に進んでおり、2025年の量産に向けて準備も順調である。N2は、TSMCとして初めてGAA(ゲートオールアラウンド)ナノシートトランジスタ構造を採用し、顧客に最高の性能、コスト、および技術成熟度を提供する。TSMCのナノシート技術は優れた電力効率を実証しており、性能と電力の利点を提供し、エネルギー効率の高いコンピューティングに対する高まるニーズに対応している。N2は、HPCとスマホアプリの両方から高いレベルの顧客の関心と予約をいただいている」と述べたほか、3nmプロセス(N3)について、PPA(性能、電力、面積)およびトランジスタ技術の両方で最先端の半導体技術であり、顧客の数年にわたる強い需要が予想されるため、大規模かつ長期にわたるノードになると確信しているとも述べている。
なお、Wei氏は機関投資家からの「Chat GPTなどのAIのTSMCビジネスへの影響は?」との質問に対し、「確かにAI関連チップの需要の増加がみられる。進行中の在庫消化にも役立っている。このような傾向により、TSMCはAIをポジティブにとらえている。しかし、今日、売り上げがどれだけ増加したか、サーバあたりの売り上げの内訳がいくらかを定量的に申し上げるのは時期尚早だ。ChatGPTの出現でHPCとAIが将来のTSMCのビジネス成長の構造的メガトレンドであるとの確信をさらに強めている」と述べている。