大阪大学(阪大)は4月20日、ショウジョウバエの多数の突然変異から発見した「ドクター・ノオ遺伝子」が、炎症性サイトカイン・シグナルを介して内臓の左右非対称を制御することを明らかにしたことを発表した。
同成果は、阪大大学院 理学 研究科のYi Ting Lai大学院生、同・松野健治教授らの研究チームによるもの。詳細は、発生生物学に関する全般を扱う学術誌「Development」に掲載された。
ヒトの身体においては、心臓が中央より左に寄っており、肝臓は右、胃は左という具合で、多くの動物では内臓器官の配置に左右の非対称性が見られる。このような左右非対称性が形成される仕組みは複数存在することがわかっているが、昆虫に関しては良く理解されていなかったという。
動物の発生が正常に完了するためには、内臓器官の左右非対称性が正しく形成されることが必要なため、その仕組みを解明することは発生学において重要な課題の1つとされる。そこで研究チームは今回、ショウジョウバエの多数の突然変異から、内臓の左右非対称性に影響を与えるものを探し出すことにしたという。
その結果、ドクター・ノオ遺伝子が発見され、同遺伝子に突然変異が起こると、内臓の左右非対称性がランダムになることが発見された。ドクター・ノオ遺伝子とは、映画としても有名なイアン・フレミング原作のジェームズ・ボンドシリーズの一編である長編スパイ小説「007ドクター・ノオ(Dr.No)」に由来するという。同作において、主人公のボンドの宿敵として登場するドクター・ノオ(ノオ博士)が、右側に心臓を持つことにちなんで命名された。
ドクター・ノオ遺伝子の機能を調べた結果、同遺伝子は、炎症性サイトカイン・シグナルで働いている受容体タンパク質が、細胞内で正常に輸送されるのに必要であることが解明された。同遺伝子が働かないと、この受容体タンパク質の細胞内輸送の経路が異常を来たし、受容体タンパク質は通常とは異なる細部内区画に運ばれて、蓄積することが確認された。この様に輸送経路が乱れると、この受容体タンパク質は炎症性サイトカイン・シグナルを活性化できるチャンスを失うことが考えられるという。これらの結果は、炎症性サイトカイン・シグナルが内臓の左右非対称性形成に必須な機能をはたしていることを示すとした。
ドクター・ノオ遺伝子と同じものは、ヒトを含む脊椎動物にも存在し、「AWP1」と呼ばれる。今回の研究成果から、ヒトにおいても、ドクター・ノオ/AWP1遺伝子が炎症性サイトカイン・シグナルで機能していることが予測されるという。そのことから、今回の研究成果により、ヒトの炎症性サイトカイン・シグナルの新たな制御の仕組みが明らかにされることが期待されるとしている。