東京工業大学(東工大)は4月19日、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)の多結晶体に水素(H)を添加し、高性能熱電材料に必要な「低い熱伝導率」と「高い電気出力」を両立させることで、熱電変換効率を向上させることに成功したことを発表した。
同成果は、東工大 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所のホ・シンイ博士研究員、同・片瀬貴義准教授、同・神谷利夫教授(現・元素戦略MDX研究センター)、同・大学 物質理工学院 材料系の野元聖矢大学院生(研究当時)、元素戦略MDX研究センターの細野秀雄栄誉教授らの研究チームによるもの。詳細は、ナノテクノロジーを含む材料科学に関する学際的な分野を扱う学術誌「Advanced Functional Materials」に掲載された。
先進国では、消費エネルギーのうち約6割が廃熱として未利用のまま捨てられているという。そのほとんどが300℃以下の低温熱であり、小規模かつ希薄に分散していることが多いため、熱電発電で電力回収を行うにしても、大量の素子が必要になる。これまで変換効率の高い熱電材料として、ビスマス・テルル化合物(Bi2Te3)などの金属カルコゲン化物が用いられているが、希少かつ毒性を有する元素を含むため、大規模な実用化への障害になっていた。
SrTiO3に代表される酸化物熱電材料は、無毒で豊富な元素で構成される利点があるものの、金属カルコゲン化物と比べて熱伝導率が高いため、熱電変換効率が低いという課題を有する。一方で、ランタンなどの重元素添加では結果が出ていなかったことから、研究チームは今回、その反対に軽元素のHを添加する方法で、SrTiO3の熱伝導率を低減させることを考案したという。
水素化カルシウム(CaH2)をSrTiO3粉体の還元反応に用いることで、負の電荷を持つヒドリド(H-)を酸素(O)位置に置換したSrTiO3-xHx粉体を生成することが可能だ。SrTiO3-xHx中のHは400℃以上の温度で脱離するために、1000℃を超える高温の加熱を必要とする焼結体の作製が困難となる。そこで、SrTiO3-xHxの圧粉体を金属箔で密閉する工夫を施し、高温で焼結させることによって、高濃度にHを含有した緻密なSrTiO3-xHx多結晶体(最大のxは0.216)が作製された。
H無添加のSrTiO3多結晶体では、室温の熱伝導率は8.2W/mKと大きいのに対して、わずか2.3%のH添加によって熱伝導率は5.4W/mKまで減少し、Hの濃度を最大の7.2%(x=0.216)に増やすと3.5W/mKまで減少したという。このような熱伝導率の低減は、室温だけでなく、高温の400℃までの温度範囲においても見られ、Hを添加するだけの方法でSrTiO3の熱伝導率を大きく低減できることが確認された。