京都大学(京大)は4月17日、新物理現象の探索に利用可能な高い感度を有する新たな光格子時計の構築に向け、イッテルビウム(Yb)原子の内殻電子が励起される時計遷移(波長431nm)の直接観測に成功したことを発表した。

同成果は、京大 理学研究科の石山泰樹大学院生、同・小野滉貴特定助教、同・高野哲至特定准教授、同・砂賀彩光特定研究員、同・高橋義朗教授らの研究チームによるもの。詳細は、米国物理学会が刊行する機関学術誌「Physical Review Letters」に掲載された。

素粒子物理学の「標準模型」では、ダークマターやダークエネルギーを説明することができないため、標準模型を超える新物理の存在が指摘されている。新物理を解明するための技術として期待されているのが原子の共鳴周波数計測で、その実装方法の1つが光格子時計だ。現在、その精度は18桁にまで達しており、あらゆる物理量測定の中で最高精度を誇るという。この超高精度なら、新物理による微小なエネルギー変化を検出できるとされ、これまでに以下のような新物理現象の探索実験が提案・実証されてきた。

  1. 超軽量ダークマター:ダークマターの中でも電子質量の10-20倍ほどととても軽量
  2. 局所ローレンツ不変性の破れ:「すべての実験結果は実験装置の向きと速度に依存しない」ことを意味する基礎物理法則の仮定の1つが破れていること
  3. 電子・中性子間の新奇な相互作用:電磁気力、強い力、弱い力、重力からなる4つの基本相互作用以外の新奇な相互作用

光格子時計で新物理現象を探索するには、感度の異なる2つの光格子時計の周波数を比較する必要がある。そのため、従来の光格子時計に加え、より新物理現象に高感度な光格子時計の構築が期待されているという。

そこで研究チームが今回、新たな時計遷移として注目したのが、中性Yb原子の「4f146s21S0⇔4f135d6s2(J=2)」遷移だ。同遷移は波長が431nmで、スペクトル線幅の原理限界(自然幅)が約0.8mHzの超狭線幅遷移であると計算されており、光格子時計の構築に適しているという。さらに同遷移は、これまでの時計遷移に比べ、上述した3つの新物理現象に非常に高い感度を持つことが理論的に示されており、新物理探索に有望とされている。

  • 今回の研究の概要図。(a)Yb原子の431nm 時計遷移。特定の周波数の光を照射すると、電子が内殻4f軌道からより高エネルギーな外殻5d軌道に励起される。(b)今回の研究で達成された世界初の431nm遷移分光。中心での基底状態原子数の減少は、その分だけ原子が励起状態に励起されたことを意味している。現状のスペクトル線幅約30kHzは、原理限界である自然幅約0.8mHzと比べると太く、その改善が今後の課題である

    今回の研究の概要図。(a)Yb原子の431nm 時計遷移。特定の周波数の光を照射すると、電子が内殻4f軌道からより高エネルギーな外殻5d軌道に励起される。(b)今回の研究で達成された世界初の431nm遷移分光。中心での基底状態原子数の減少は、その分だけ原子が励起状態に励起されたことを意味している。現状のスペクトル線幅約30kHzは、原理限界である自然幅約0.8mHzと比べると太く、その改善が今後の課題である(出所:京大プレスリリースPDF)