大阪大学(阪大)は4月18日、木材由来のセルロースナノファイバー製の紙である「ナノペーパー」を用いて、ヒトの微弱な生体シグナル(脳波、心電、筋電など)を無線計測可能な電子皮膚「ナノペーパー製e-skin」を開発したことを発表した。

  • (左)ナノペーパー製e-skinによる生体シグナル計測の概要図。(右)ナノペーパー製e-skinによる脳波・心電・筋電計測

    (左)ナノペーパー製e-skinによる生体シグナル計測の概要図。(右)ナノペーパー製e-skinによる脳波・心電・筋電計測(出所:阪大Webサイト)

同成果は、阪大 産業科学研究所/阪大 工学研究科の黄茵彤大学院生(日本学術振興会 特別研究員DC1)、同・荒木徹平准教授、同・古賀大尚准教授らの研究チームによるもの。詳細は、界面とそのインタフェースに関する学術誌「Advanced Materials Interfaces」に掲載された。

電子皮膚は、疾患の早期発見や術後状態のモニタリングへの活用が期待されている、電気的・化学的な生体シグナル計測が可能なウェアラブルデバイスだ。現在は、プラスチック基材を用いた電子皮膚の開発が盛んだという。理想的な電子皮膚には、機能やSDGsの観点から、機械的柔軟性、皮膚適合性、皮膚密着性、通気性、滅菌処理耐性、生分解性、持続生産性といった多くの特性が求められる。しかしこれまでのプラスチック製電子皮膚では、これらの特性をすべて満たすことは困難だった。

そうした中、上述した特性をすべて実現するため、機械的柔軟性、生体適合性、生分解性、持続生産性を持つナノペーパーを基材とした電子皮膚の開発を進めているのが研究チームだ。ところが研究の中で、緻密な構造を持つ従来のナノペーパーでは、肝心の皮膚密着性と通気性が低いという問題が明らかになったという。そこで今回の研究では、ナノペーパーに多孔質ナノ構造を設計することで、高い皮膚密着性と高い通気性の実現を目指したとする。

そして、せん断保持力の向上による高い皮膚密着性と、水蒸気透過性の向上による高い通気性を同時に発現した多孔質ナノ構造のナノペーパーを開発することに成功。厚さ25μmのこの多孔質ナノペーパー基材に、厚さ15nmの電極を実装することで、電子皮膚が作製された。

得られたナノペーパー製e-skinを、簡単な前処理後に皮膚に貼り付けると、皮膚の微細なしわに沿って変形しながらしっかりと密着。この優れた皮膚密着性によって、脳波、心電、筋電といったヒトの微弱な生体シグナルも効果的に無線計測することができたという。研究チームはこれにより、認知症やてんかん、心臓疾患、筋肉・神経疾患などの診療にむけた低ノイズ計測システムが実現されたとする。

ナノペーパー製e-skinは、皮膚に3時間以上貼り付けておくことが可能で、しわ寄せを100回繰り返しても皮膚への密着を保つことができたという。さらに、皮膚への刺激も見られなかったことから、長時間の生体シグナルモニタリングにも適しているとのことだ。また、皮膚の動きに対しては高い密着性が保たれている一方で、痛みなく剥がすことができ、熱による滅菌処理と繰り返しの利用が可能であることも実証された。

今回の研究で開発されたナノペーパー製e-skinは、理想的な電子皮膚に求められる特性を満たしており、生体・環境調和性の次世代医療・ヘルスケアデバイスとして期待できるという。

共同研究チームのうち、荒木准教授らのチームでは、これまでに有機電気化学トランジスタや有機電界効果トランジスタを中心に、薄膜・伸縮・透明デバイスなどを開発し、ヒトのストレスをモニタリングするためのシート型センサシステムを開発してきた。また古賀准教授らのチームでは、ナノペーパーのデバイス基材応用に加えて、ナノペーパーの半導体化やナノペーパーへのCO2レーザー照射による微細配線作製に取り組んできた。近い将来、これらの技術を組み合わせることで、より高度な環境配慮型電子皮膚を開発するなど、医療・ヘルスケアデバイスの開発をカーボンニュートラルな方向へ転換していくとしている。