東京大学(東大)は4月17日、1966年の発見以来その分類について論争が続く、約3億年前の海に生息していた動物「タリーモンスター(トゥリモンストゥルム)」の153点におよぶ化石の表面の3次元形状を3Dレーザスキャナにより収集し、同じ地層から産出するさまざまな動物化石との比較解析を行うと同時に、タリーモンスターの吻部にある歯のような構造をX線マイクロCTで撮影し、その3次元形状を詳細に明らかにしたことを発表した。
また、その形態学的特徴を詳細に調べた結果、近年の先行研究で提唱されたタリーモンスター脊椎動物説の根拠として使われた筋節・脳・鰓孔(さいこう/えらあな)・鰭を支持する構造と同定された構造が、脊椎動物のそれらとは明確に異なる特徴を持っていることから、タリーモンスターは脊椎動物ではないことが示唆されたと発表した。
同成果は、東大大学院 理学系研究科の三上智之大学院生(現・国立科学博物館地学研究部 特別研究員)と同・大学院 理学系研究科(兼担)/同・大学院 新領域創成科学研究科の岩崎渉教授らの研究チームによるもの。詳細は、「Palaeontology」に掲載された。
タリーモンスターは、米・イリノイ州の古生代石炭紀(およそ3億6000万年前~2億9900万年前)の地層から産出するメゾンクリーク生物群のみに見られる奇妙な姿の古生物だ。長い眼柄と、歯のような構造を持つ顎状の器官など、他のどの動物にも似ていない不思議な形態が特徴で、これまでさまざまな動物と比較されてきた。そしてその検討から、タコやナメクジなどの軟体動物、ミミズやヒルなどの環形動物、ヒモムシなどの紐形動物、カンブリア紀のバージェス動物群の一種として知られるオパビニア(頭にハサミ状の構造がついた吻と5つの眼を持つ)などと近縁である可能性が指摘されてきた。しかし、いずれの説も決定的な証拠に欠け、その正体は謎のままである。
そうした中、近年提唱されたのが、ヤツメウナギに近い脊椎動物だという説だ。同説の根拠として、タリーモンスターが脊椎動物を特徴づける解剖学的構造を持っているように見えることが挙げられている。もしこの説が正しければ、脊椎動物の形態的多様性についての現在の理解が見直しを迫られるものとなるという。
その一方で、タリーモンスターの化石に残されたさまざまな解剖学的構造の解釈を巡っては議論が続いており、本当に脊椎動物なのかどうかは結論が出ていなかったとする。そこで研究チームは今回、その正体に迫るため、日本国内の7つの博物館に収蔵されているタリーモンスターの化石計153点、およびメゾンクリーク生物群の多様な動物化石計75点を、3Dレーザスキャナで詳細に調べたという。