東京都健康長寿医療センターは4月17日、慢性的な肩こりを有する人を対象に行った調査データを解析し、皮膚へのやさしい刺激が脊髄の「オピオイド受容体」を活性化して、痛みを引き起こすような刺激の情報伝達を妨げるとともに、首・肩回りの痛みや不快感などの肩こり症状をやわらげ、首や肩の可動域を増加させることを明らかにしたと発表した。
同成果は、都健康長寿医療センター研究所 老化脳神経科学研究チーム 自律神経機能研究の堀田晴美研究部長、同・渡辺信博研究員、日本健康寿命延伸協会の奈良毬那氏、日本放送協会(NHK)の鈴木志穂子ディレクター、同・山本高穂チーフ・ディレクター、おおやま健幸の街クリニック、都健康長寿医療センター研究所 高齢者健康増進事業支援室の杉江正光博士らの共同研究チームによるもの。詳細は、日本生理学会が刊行する欧文学術誌「The Journal of Physiological Sciences」に掲載された。
皮膚への刺激は、触角や痛覚などの感覚を生じさせるほか、内臓機能や鎮痛などの生理機能も変化させる。これまで、痛覚を伴うような強い刺激(侵害刺激)の影響に関して主に研究が進められてきたが、手をあてがうようなやさしい刺激についてはあまり注目されていなかったという。
研究チームはこれまで、手指での刺激を模倣するために、日本の小児鍼にヒントを得て開発されたマイクロコーンと呼ばれる細かいブラシがついた器具を用いて、皮膚へのやさしい刺激による作用の調査を実施してきた。その結果、刺激により脊髄のオピオイド受容体が活性化することで、侵害刺激の情報伝達を妨げることを見出したという。そして、首の痛みの治療に用いられている鍼や電気刺激の作用にもオピオイド受容体が関わることから、マイクロコーンを用いた皮膚刺激が肩こりの症状を緩和させると予想したとする。
NHK特集番組「東洋医学ホントのチカラ 健康の大問題解決SP」(2022年1月放送)において、慢性的な肩こりを有する人(12名)を対象に行った調査のデータが解析された。このデータには、首・肩回りの痛みや不快感、動かしにくさについて視覚的アナログスケール(0から10の間で評価)で計測した主観的なデータと、首や肩関節、肩甲帯の動き(計12種類)の可動範囲を理学療法士が計測した客観的なデータが含まれている。
参加者は、首こりを感じる部位にマイクロコーンを絆創膏で貼り付けるセルフケアを2週間実施した(セルフケア開始前には医師が触診し、マイクロコーンの貼付部位が指導された)。その結果、セルフケア前の痛みは平均6.9/10だったが、2週間のセルフケア後は平均2.3/10まで低下したといい、不快感、動かしにくさのスコアも同様に低下したとする。また12種類の動きのうち、8種類でセルフケア後に可動範囲が増加した一方で、皮膚のかぶれなどの異常は認められなかったとした。
研究チームによると今回の研究成果は、皮膚への刺激には、触れたなどの感覚を生じさせる以外にも、筋肉などの深部組織の慢性的な痛みを緩和する役割があることを意味するという。さらに、マイクロコーンを用いた皮膚へのやさしい刺激は、肩こりに対する安全かつ有効なセルフケア方法になる可能性が考えられるとする。ただし、マイクロコーンの効果および安全性をさらに検証するため、無作為化二重盲検対照試験を行う必要があるとしている。