優れた女性科学者をたたえる「猿橋賞」が、太陽活動の変動やその気候への影響を研究する武蔵野美術大学教授の宮原ひろ子さんに贈られることが17日、決まった。主宰する「女性科学者に明るい未来をの会」(中西友子会長)が発表した。
授賞理由は「太陽活動の変動のメカニズムおよびその気候への影響に関する研究」。
太陽の活動度は11年周期を基本に変動し、表面の低温で磁場が強い「黒点」や、大きな爆発「フレア」が増減する。活動度に伴って太陽の磁場が大規模に変動し、ピークのたびにN極とS極が逆転を繰り返す。一方、銀河内を飛び回る高エネルギー粒子は太陽の磁場に阻まれるが、太陽の活動が弱まると地球に多く届く。届く粒子の量は太陽磁場の極性の影響を受け、太陽の活動周期の倍の22年周期となっている。
放射性同位元素の炭素14は高エネルギー粒子の働きでできる。そのため、植物や湖底の堆積物に残った炭素14の量を手がかりに、過去の太陽活動の強弱が分かる。
そこで宮原さんは、長寿で知られる屋久杉などの年輪を1枚ずつ剥がし、炭素14の量を計測。太陽がおとなしく地球が寒冷となった17~18世紀に、太陽の活動周期が14年程度と長かったことを発見した。温暖だった9~10世紀には太陽が非常に活発で、周期が9年程度だった。
また宮原さんは年輪の成長率から、寒冷期と温暖期の気温変動が、太陽の活動周期の倍にあたるそれぞれ29年と19年ほどだったことも示した。太陽活動と、銀河を飛ぶ高エネルギー粒子が地球に届く量、気候変動が関係していることを実証した。さらに、炭素14の測定精度を高めたほか、別の放射性同位元素であるベリリウム10による手法も開発。太陽物理学の発展に貢献してきた。
17日に都内で会見した宮原さんは「うれしさと戸惑いと感謝の気持ち。研究者として生き残れるか不安で、必死でやってきた。太陽活動は気候、降水量や気温の変化、作物の収穫量に影響するなどの形で、私たちの社会とつながっているかもしれない。基礎研究として人類の財産になるが、人の役に立ちたいという気持ちからも研究に魅力を感じる」と話した。
1978年生まれ、埼玉県出身。名古屋大学理学部卒業、同大大学院理学研究科博士課程修了。東京大学宇宙線研究所特任助教、武蔵野美術大学専任講師、同准教授などを経て2021年から現職。
同会は地球化学者の猿橋勝子博士の基金により創設され、同賞は今年で43回目。贈呈式は5月28日に東京都内で開かれる。
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