三井不動産は4月18日、同社のロジスティクス事業の展望を説明する会見を行った。
会見には、三井不動産 取締役専務執行役員 ロジスティクス本部長である三木孝行氏が登壇し、新設された「イノベーション推進室」が進めるDX(デジタルトランスフォーメーション)施策やサステナビリティに関する各種施策について説明した。
DXに関する取り組み:新組織と新サービスで物流業界を支える
近年、物流業界ではEC市場が拡大する一方、労働力不足や長時間労働が大きな課題となっている。また、迫る2024年4月にはトラックドライバーの時間外労働の上限規制が適用されるため、限られた人的リソースによる効率的なオペレーションの構築や、従業員の負担軽減のための取り組みなど、早急な対応が求められている。
同社は、これらのことを背景として、2024年問題(2024年4月からトラックドライバーの時間外労働の上限規制が適用されることに伴うさまざまな問題のこと)、ECの隆盛など、人手不足が加速し続ける物流業界において、テナントや社会全体の課題の解決に本格的に踏み出すべく、同社ロジスティクス本部内に「イノベーション推進室」を新設することを発表した。
イノベーション推進室は、ハードとソフトの両面での物流の課題解決をミッションとした新組織で、ロジスティクス本部のロジスティクス事業部内に設立されたという。
「弊社では、これまでも物流事業のイノベーションを推進しており、物流DX(デジタルトランスフォーメーション)の最先端機器体感ショールームである『MFLP ICT LABO』の開設や、物流総合コンサルティング会社である「MF ロジソリューションズ」の設立など、さまざまな取り組みを行ってまいりました。そして今回、DXによる省力化・機械化のニーズに特化した専門部署として、イノベーション推進室を新設することにより、顧客の課題解決や物流戦略策定のサポートに一層注力したいと考えております」(三木氏)
この新組織開設に加えて、同日より物流コンサルティングプラットフォーム「MFLP&LOGI Solution」の提供を開始することも発表された。
同プラットフォームでは、まず顧客の課題を洗い出し、次に約50社のサポート企業と連携し、各社の最先端技術を結びつけることで、ハードとソフトの両面で顧客の物流課題解決に寄与していくという。
これらのほかにも、2022年11月には、三井ショッピングパーク公式通販サイト「&mall」の物流拠点として、自動化機器を導入した「EC 特化型物流センター」を「MFLP 船橋Ⅲ」内に開設して自社利用を開始するなど、さまざまな取り組みを開始しているのだという。
サステナビリティに関する取り組み:環境と社会の両面で物流業界を支える
DXに関する取り組みのほかに、三井不動産のロジスティクス事業では、サステナビリティに関する施策にも注力している。
「ロジスティクス事業におけるサステナビリティに関する取り組みは、大きく分けて『環境に関する取り組み』と『社会に関する取り組み』の2つの軸で施策を行っております」(三木氏)
三木氏が挙げた「環境に関する取り組み」の中では「屋上に太陽光発電設備を最大限設置」、「供給電力のグリーン化」、「新築・既存物件外部認証取得 100%」という3つの施策が行われている。
特に「屋上に太陽光発電設備を最大限設置」と「供給電力のグリーン化」は関連した取り組みとなっており、新築物件の屋上には太陽光発電設備を最大限設置し、既存物件についても積極的に設置を進めている。同時に、同社と三井不動産ロジスティクスパーク投資法人が保有する全施設の共用部供給電力を2023 年度中に100%グリーン化(太陽光発電自家利用と非化石証書などを利用して使用電力を実質的に再生可能エネルギーとすること)する予定になっている。
加えて、専有部もテナント企業へのグリーン電力の利用を促進し、要望に応じて非化石証書(非化石電源で発電された電気から、「環境的な価値」を切り離して証書化したもの)を提供するなど、同社のみならず多くの企業を巻き込んだ環境改善を目指していくという。
一方でもう1つの軸となる「社会への取り組み」は、「防災・BCP関連」「地域貢献」「ダイバーシティインクルージョン」という3つの軸で行われる。
「防災・BCP関連」の取り組みとしては、行政との防災協定として、2023年1月に三井不動産・日鉄興和不動産・ヤマト運輸・板橋区の4者で「災害時等における防災施設整備等に関する4者基本合意書」を締結している。
この「災害時等における防災施設整備等に関する4者基本合意書」では、板橋区が目指す河川氾濫時における水害に強い安心・安全な街づくりの実現に向けて、「MFLP・LOGIFRONT東京板橋(三井不動産の旗艦物件)」に隣接する「板橋区立・舟渡水辺公園」と一体となる高台広場、水害時の緊急一時退避場所や避難路等の防災上必要な公共施設の整備を行い、地域住民1,000人の緊急一時退避場所を確保するなどの取り決めを交わしている。
また「ダイバーシティインクルージョン」では、グローバルで多様な働き方をサポートするため、礼拝堂や多国語サイン、保育施設、ジェンダーレストイレなど、人種や性別を超えて長く働ける環境を作ることに注力している。
このように、同社は環境と社会という両面から物流業界を支え、企業としての価値を高めていく構えであることを表明した。
三木氏は会見を以下のように締めくくった。
「弊社は、国内で新たに6物件の開発が決定いたしました。これにより、弊社のロジスティクス事業として開発する施設は、竣工稼働施設が国内43物件、海外1物件加え、開発中施設の国内15物件、海外3物件を合わせて計62物件となりました。2012年4月にロジスティクス事業を開始してからの累計総投資額は約8,500億円となり、2023年度中には1兆円に達する見込みです。今後も、弊社は、先端技術を活用したDX施策、従業員満足度向上施策を推進するとともに、業界のニーズに対応して数々の物流施設を開発・運営してきた実績、パートナー企業や荷主企業さまとのネットワークを活かし、労働力不足をはじめとする物流業界の課題解決のための取り組みを一層推進してまいります」(三木氏)