アマゾン ウェブ サービス ジャパンは4月17日、デジタル人材が創出する経済効果と同社の施策に関する記者説明会を開催し、代表執行役員社長の長崎忠雄氏が説明を行った。
長崎氏は、「日本のデジタル競争力は人にあると考えており、無償のクラウドスキルトレーニングを提供するなど、われわれは数億ドル単位で投資している。日本では2017年からクラウドトレーニングを提供しているが、このトレーニングの受講者が50万人達した。昨年は30万人だったので、1年で20万人増えたことになる」と語った。
さらに、長崎氏は「デジタル人材を育成するにあたって、一番重要なのは組織のリーダーが人への投資にコミットすること。これを理解してもらうために調査を行っている」と述べ、同日に結果が発表された「APACデジタルスキル調査 第3弾」に話をつなげた。
日本のデジタル人材はGDPに推定約164.3兆円貢献
「APACデジタルスキル調査 第3弾」は、日本とアジア太平洋地域におけるデジタル人材が創出する経済効果や採用との相関関係にフォーカスしたもの。調査対象は、オーストラリア、インド、インドネシア、日本、マレーシア、ニュージーランド、シンガポール、韓国、タイの雇用主・労働者。有効回答数は労働者1万6,000人、雇用主7,500人で、これらのうち日本の労働者は2,796人、雇用主は974人となっている。
同調査については、トレーニングサービス本部 本部長 岩田健一氏が説明を行った。調査の結果、データ分析、クラウドアーキテクチャ設計、ソフトウェア開発などのデジタルスキルを活用する日本の労働者が、日本の年間国内総生産(GDP)に対し推定1兆7,000億米ドル(約164兆3,000億円)の貢献していることが明らかになった。
これは、デジタルスキルを活用する労働者が得る賃金が、同程度の学歴のデジタルスキルを活用しない労働者と比較して、51%高いことに起因しているという。
同調査では、デジタルスキルを3つのレベルに分類している。「基礎的なデジタルスキル」は電子メール、文書作成、その他のオフィスソフトウェア、ソーシャルメディアを使用できる能力と、「中程度のデジタルスキル」をドラッグ&ドロップによるWebサイトデザイン、トラブル発生時の対応、データ分析などをできる能力とし、「高度なデジタルスキル」は、クラウドアーキテクチャの設計や管理、ソフトウェアやアプリケーションの開発、人工知能(AI)、機械学習を扱える能力と定義している。
今回、高度なデジタルスキルを活用する従業員を雇用する日本の組織の36%が、過去1年に堅調な売上成長(10%以上の売上増)を実現していることが明らかになった。これに対し、中程度のデジタルスキル組織は27% 、基礎的なデジタルスキル組織は20%が10%以上の売上増を達成しており、岩田氏は、「売り上げ成長を考えると、高度なデジタルスキルを持っている人が必要」と指摘した。
また、高度なデジタルスキルを活用する労働者を雇用する日本の組織のほぼ半数となる49%が 過去2年間に革新的な新製品を上市していることもわかっている。基本的なデジタルスキルを活用する労働者を雇用する組織では、その割合が19%に減少する。
中長期の人材育成とビジネス価値創出を伴走支援
岩田氏は、企業がデジタル人材育成において直面している課題として、「失敗が許容されにくい環境」「短期で求められる成果」「ビジネス価値を支えるべき人材育成そのものの目的化」を挙げた。
つまり、これらの課題を解決すれば、人材育成における課題を解決できることになる。岩田氏は、上記の課題の解決の方向性として、「トライ&エラー文化の醸成」「中長期視点での成果の定義」「ビジネス価値創出を目的に」を示した。
これら3点を網羅する形で、経営層が現場に対して方針を示せている場合は、人材育成が成功している確率が高いという。
岩田氏は、同社が中長期人材育成の基盤として提供している「AWS Skill Builderteamsubscription」を紹介した。2022年にはトレーニングをどう使うかという観点から、AWS Skill Builderを軸とした中長期の育成伴走支援を開始した。
加えて、岩田氏はビジネスを成功させるためのトレーニングとして、「ビジネス価値創出」の伴走支援も紹介した。同社は、ビジネスの上流から下流にかけて、「Why/What」「How(Business)」「How(Technology)」という3つの観点から、ビジネス価値創出を支援する。
カシオ、日立建機、三菱UFJニコスの伴走支援を紹介
岩田氏の話を受けて、長崎氏が「ビジネス価値創出」の伴走支援の具体例を紹介した。カシオ計算機は顧客体験価値の創造に向けてリカーリングビジネスを強化するにあたり、内製化とアジャイル開発へシフトに取り組むため、「AWSプロフェッショナルサービス」を活用したという。
同サービスは新しい技術やメソドロジーを活用することに加えて、人やプロセスの変革も支援する。
カシオはAWSのサーバレスサービスを導入し、4カ月で新サービスとして、ICT学習アプリ「ClassPad.net」の提供を開始することに成功した。これにより、エンジニアのモチベーションが高まり、意識改革につながったそうだ。
続いて、「ビジネス価値創出」の伴走支援において、How(Business)に当たる組織と仕組み作りを支援した日立建機の例が紹介された。同社は建設業界を取り巻く環境変化を見据え、実践型DX人財育成プログラム「デジタルチャレンジ」を開始。
16名の社員が5カ月に及ぶ価値創造プログラムに参加し、AWSのAIサービスを活用した簡易プロトタイプを開発したという。次回は、対象部門を広げてDX人財の取り組む計画とのことだ。
3つ目の事例としては、三菱UFJニコスの取り組みが紹介された。同社は中長期的な組織変革に向けた独自のDXコア人材育成プログラム「DRIVE NEO」を開始。このプログラムの下、顧客視点での「オペレーション改革」を担う23名が3カ月にわたり、顧客視点であるべきサービス・業務改革のアイデアを追求し、簡易プロトタイプで価値の可視化を実践したという。
最後に長崎氏は、「人への投資を通じたデジタル化、人への投資のコミットは、今取り組んでおかないと間に合わない。イノベーションは多様性が重要。多様性が許容されると、失敗から学ぶことができる」と語っていた。