名古屋大学(名大)は4月14日、脂肪組織由来分泌因子「アディポリン」が持つ、慢性腎臓病に対する防御作用とそのメカニズムを明らかにしたことを発表した。
同成果は、名大大学院 医学系研究科 分子循環器医学(興和)寄附講座の大橋浩二特任准教授、同・大内乗有特任教授、名大大学院 医学系研究科 循環器内科学の方麗欣大学院生、同・室原豊明教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、物理・生命科学・地球科学などの幅広い分野を扱うオープンアクセスジャーナル「iScience」に掲載された。
慢性腎臓病は、日本において8人に1人が罹患するほど頻度の高い疾患であることが知られていて、高い確率で腎不全に移行するため、大きな社会問題になっている。肥満は、糖尿病や高血圧を誘発することで慢性腎臓病を誘発するのに加え、肥満そのものが慢性腎臓病の危険因子であることが明らかになりつつある。しかし、そのメカニズムについてはまだ完全に解明されたわけではない。
研究チームがこれまでの研究において発見したのが、肥満によって血中での発現が低下し、2型糖尿病に防御的に作用する新規脂肪由来因子のアディポリンだ。そして同因子が、動脈硬化や心筋梗塞にも有益であることも報告している。そこで今回の研究では、同因子の慢性腎臓病に対する作用を明らかにしたという。
研究チームは、アディポリンを欠損した「APL-KOマウス」を作製し、対照の野生型(WT)マウスとともに、左の腎臓の2/3と右腎臓を取り除いて負荷をかける5/6腎摘手術を実施し、2か月後にそれぞれの腎機能の評価を行った。その結果、APL-KOマウスはWTマウスと比較して、血中の尿素窒素(UN)と尿中のアルブミン排泄が増加、すなわち腎機能増悪が認められ、アディポリンの全身投与で改善することが見出されたとする。
近年、ケトン体の臓器保護作用が多く報告されているが、APL-KOマウスの腎臓では腎臓組織中のケトン体「βヒドロキシ酪酸」とケトン体合成酵素「HMGCS2」の発現が低下しており、アディポリンの補充により同酵素の発現とケトン体産生が増加することが確認されたとする。増加したケトン体は、腎臓での内因性炎症(インフラマソーム)を抑制し、近位尿細管細胞のプログラム細胞死(アポトーシス)と、炎症性サイトカインの発現や酸化ストレスを抑制することが明らかにされた。
また、インフラマソームの阻害でAPL-KOマウスの腎機能増悪が完全に改善することにより、アディポリンがケトン体産生を促進することでインフラマソームを抑制し、慢性腎臓病から腎臓を保護する仕組みを発見したという。さらに、腎臓の近位尿細管細胞を用いた培養細胞の実験において、アディポリンがHMGCS2とケトン体産生を増加させるメカニズムに関しても、中性脂肪代謝を促進する転写因子「PPARα」をアディポリンが活性化し、HMGCS2の発現を上昇させることも併せて発見したとする。
現時点で、アディポリンの受容体については明らかでないことから、研究チームは最終目標として、受容体の探索と受容体に作用する薬剤の開発を挙げる。またインフラマソームは、痛風や慢性関節リウマチのような自己免疫疾患にも関与しており、インフラマソーム阻害剤の開発を進め、同阻害剤を用いた慢性腎臓病の治療法開発も視野に入れていく予定としている。
なお糖尿病患者において、ケトン体の血中濃度が上がりすぎると、危険な病態である「ケトアシドーシス」になる可能性があるので注意が必要だとする。ただし、今回ケトン体の腎保護作用が明らかになったことを踏まえ、血中濃度を上げすぎることなく、慢性腎臓病には保護的に働くように、腎臓でケトン体を上昇させる薬剤や食事療法の開発も進めていく予定とした。