東京大学(東大)と国立天文台(NAOJ)の両者は4月12日、東大が南米チリの東大アタカマ天文台(TAO)にて建設を進める口径6.5mの望遠鏡「TAO望遠鏡」の運用協力にかかる覚書を再締結したことを発表。4月10日には、東大の藤井輝夫総長とNAOJの常田佐久台長による覚書調印式がNAOJにて執り行われた。
TAOプロジェクトは、アルマ望遠鏡などで知られるチリ・アタカマ砂漠にあるチャナントール山頂(標高5640m)のTAOに、口径6.5mの大型赤外線望遠鏡を建設し運用する計画で、東大が20年以上にわたって進めてきた大型プロジェクトだ。なお、TAOは天文台として世界で最も標高が高い位置にあり、ギネス記録に認定されている。
TAOは、まず2006年に気象モニタと赤外雲モニタが設置され、気象データと雲量データの自動計測が始まり、2009年には口径1mのminiTAO望遠鏡の運用がスタート。現在は本命である6.5mTAO望遠鏡の建設最終段階に入っており、2024年にはいよいよ科学観測を開始する予定だ。そして今回、約5年前に両者が締結したTAO望遠鏡の運用協力に関する覚書の再締結に至ったとする。
TAO望遠鏡は南半球に位置するため、NAOJが所有するハワイのすばる望遠鏡と協力することで、可視赤外線における全天観測が実現される。また、同じアタカマ砂漠のアルマ望遠鏡と組み合わせると、可視赤外線から電波にわたる多波長観測なども実現される。
なお赤外線は紫外線などと比べれば大気圏を透過しやすいが、それでも地表に近いと吸収されてしまう波長帯も増える。しかし、標高5000mになると、大気圧が地表のおよそ半分となり、それだけ空気が薄くなり宇宙が近くなるため、赤外線の波長においても透明度が非常に高くなる。これまでの観測サイトでは、2.5μm付近までの近赤外波長で観測可能とはいっても、波長帯がJ、H、Kバンドなど「大気の窓」に分断されてしまっていた。しかしTAO望遠鏡であれば、分断なしで連続的に観測できるという。さらに、従来サイトでは観測できなかった26μmよりも長い中間赤外線波長においても、38μmまで観測な窓が現れるという。つまり、地上ではTAO望遠鏡でしか観測できない赤外線波長を捉えられるということである。
そして東大などは、この優れた大気透過率を活用するため、TAO望遠鏡用の2つの観測装置「SWIMS(近赤外線2色同時多天体分光撮像装置)」と、「MIMIZUKU(中間赤外線観測装置)」を開発中だ。
SWIMSは近赤外線観測に最適化されており、波長0.9~2.5μmにおいて切れ目のない観測を行える。さらに、赤方偏移した遠方銀河の輝線観測などにおいて、威力を発揮するという。また9.6分角と視野が広く、2色同時観測を行え、サーベイ能力が非常に高い点も特徴だとする。これについては、銀河進化や宇宙論観測、あるいは希少天体捜査などで大きな威力を発揮するとしている。
一方のMIMIZUKUは、より波長の長い中間赤外線を担当し、2μm~38μmという非常に広い波長範囲をカバー。26μm~38μmは、地上ではTAO望遠鏡でしか観測できないことを上述したが、それを担当するのがMIMIZUKUである。30μmの波長帯では温かいダストをよく捉えることができるといい、一方の冷たいダストは電波で観測できることから、アルマ望遠鏡などと連係することで、原始惑星系円盤をよりクリアに観測できるようになるという。さらにMIMIZUKUは、2視野同時撮像といったユニークな機能も有しており、従来中間赤外線観測では不可能だった時間変動の検出などにおいても効果を発揮するとした。
さらにTAO望遠鏡では、科学観測時間の約35%を全国の研究者に広く提供する計画だといい、それに加え、大学院生の利用も促進し、若手育成にも力を入れていくとする。そして今後、NAOJも参加している国際協力で建設中の30m望遠鏡「TMT」など、次世代の望遠鏡で活躍できる人材を育成していくとしている。