高齢者に広がっている虫歯「根面う蝕(こんめんうしょく)」の原因は菌ではなく、歯に元から存在するタンパク質分解酵素の活性化が原因であることを、東北大学大学院歯学研究科の高橋信博教授(口腔生化学)らが突き止めた。虫歯の進行を抑える「フッ化ジアンミン銀」や、お茶に含まれるカテキンなどが酵素の働きを抑制することも分かった。
根面う蝕はわずかに茶色になることもあるものの、あまり目立たない。痛みがほぼないが、あっという間に進行し、ある日突然歯が折れたり割れたりする。年を重ねて歯ぐきが下がり、露出した部分の歯が狙われる。歯が黒くなり、徐々に進行する小児や成人の虫歯とは異なり、その発症のメカニズムはよく分かっていなかった。
歯は3層構造になっており、一番外側の硬いエナメル質の下にある象牙質、セメント質といわれる2つの部分は軟らかい。エナメル質は歯の見えている部分では厚く、根っこに向かって薄くなっている。それに対して、根っこの部分は象牙質とセメント質が厚みを増してくる。エナメル質がほぼ無機質でできているのに対し、象牙質とセメント質は有機質とコラーゲンでできている。
健康なうちは、歯ぐきは弾力性があって歯の根っこの部分を支えている。しかし、歯周病が進んだり、強すぎる歯磨きや歯磨きの回数を重ねることですり減ったりし、歯ぐきが下がる。すると今までは隠れていた歯の根っこの部分が現れてきて、歯が長く見えるようになる。
この歯の根っこの部分に起きるのが根面う蝕だ。発生から3カ月ほどで歯を壊す。これまであまり注目されてなかったが、高齢化に加え、80歳になっても20本以上自分の歯を残そうという8020運動の達成率が上がったことによって急速に広がりを見せている。甘いものを好んで取らない高齢者にも発生する。飲み込む力が弱くなった高齢者の歯が突然折れると、誤って飲み込んだり、気管に入ったりして危ない。
高橋教授らは、根面う蝕の進行の仕方や発生する部位が若い人の虫歯と違うことに着目。象牙質とセメント質の中だけに元から存在するタンパク質分解酵素が進行に関与しているのではないかと考えた。人の歯に近いウシの歯を使って酵素の動きを測定すると、元々おとなしくしていた酵素が、歯の根っこが露出して食事や飲み物に含まれる弱い酸にさらされることで目覚めて活性化し、歯自身を壊していくことを発見した。
小児や成人の虫歯に加え、根面う蝕にも効果があるフッ化ジアンミン銀は日本で半世紀前に開発された。世界中で使われている薬剤で、歯に直接塗布する。高橋教授らはこれ以外に、カテキンやクロルヘキシジン、水酸化カルシウムといった物質も効くことを確かめた。
カテキンは有用だが、お茶を飲んでも歯の根っこに届くとは限らないうえ、だ液を薄めてしまうので、それだけで根面う蝕を予防できるわけではない。高橋教授は「タンパク質分解酵素は一度活性化されるとその動きを止められない。酵素をコントロールできて、口の中で使っても安全な薬が開発されれば、根面う蝕を止められるのではないか」と話している。
今回の研究成果は米歯科雑誌「ジャーナル・オブ・デンティストリー」の2023年4月号に掲載された。
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