MLBの大谷翔平選手のように、ここ数年、「眠りの質」を気にする人が増えた。睡眠が健康にとって重要であることは周知の事実だが、最近は睡眠のクオリティがどうなっているかを具体的に調べる人が増えたようだ。その背景にはいろいろあるが、ガジェットの普及が最も大きな原動力になっている。

寝起きスッキリ、それとも寝起きどんより!?

朝に目覚めた時、頭脳は明晰で昨晩までの疲れもよく取れていて爽快な気分になる人もいれば、睡眠時間は足りないし疲れも取れていないしどうも頭がぼんやりしているという人もいる。「朝に目覚めて疲れが抜けていると感じるのは数年に一度だけ」など、そもそも眠ることで疲れが取れることがあるのかと信じがたい人もいる。、睡眠の質は実にバラバラだ。

程度の差はあるものの、睡眠が心身を回復させることは古くから知られている。アスリートにとって、睡眠でどこまで心身を回復させることができるかは、自身が競技で勝てるかを左右する重要なファクターだ。トレイニーにとっても、より強い体になるために睡眠はとても大切な工程だ。

最近は、こうした認識がビジネスマンにも広がりつつある。ビジネスマンは仕事する以前に人間であり、健康であることは大前提だ。しかし、パソコンを使う仕事や体をあまり動かさない現代社会は健康とは逆の習慣を招きやすい。便利な社会になっているのに不健康になっていくのは本末転倒だ。

ガジェットが「眠り」のクオリティを認識させた

睡眠の質を測定する装置は以前から存在している。しかし、家電量販店で販売しているような手軽なデバイスではなかったり、スタイリッシュとは言えなかったりするものだった。あくまでも健康上の問題を計測するための医療機器の一つといった位置づけにあったように思う。

しかし、心拍数を計測するタイプのウェアラブルフィットネスガジェットの登場で状況が変わった。当初はランニングといったトレーニングや日常生活の運動をトラッキングすることを目的とするものだったが、ウェアラブルガジェットは睡眠をモニタリングする機能を得るようになった。

睡眠中は当然ながら起床時のような意識はないため、自分で自分の睡眠を記録することはできない。睡眠をモニタリングし自分の睡眠を調べるには、常に身に着けるタイプのウェアラブルデバイスが必要だ。ウェアラブルフィットネスガジェットの登場は自分の睡眠を調べる手軽な方法を提供してくれるようになり、まずアスリートやトレイニーが活用するようになっていった。

Apple Watchでコンシューマーにも認識が広がる

アスリートやトレイニー、それに健康意識の高い方以外にも「眠りりの質」を調べるということが広まったのは、Apple Watchの存在が大きい。日本は世界的に見てもiPhoneの保有率が高い国であり、iPhoneを使っているユーザーが多い分、Apple Watchへの関心も高い。

Apple Watchは当初、睡眠トラッキングを得意とはしていなかった。だが、watchOS 7以降のバージョンに睡眠トラッキング機能が導入されたことでコンシューマ向けでも状況が変わっていった。Apple Watchのようなガジェットに睡眠を調べる機能があることが知られるようになった。

機能があるなら使ってみようという気にもなるものだ。Apple Watchはそれまでもアプリを使えば睡眠トラッキングを行うことはできたが、やはりwatchOSにデフォルトの機能として搭載されたことが大きかったと思う。

睡眠トラッキングで何が調べられる?

睡眠トラッキングは、心拍数を記録して睡眠がどのような状態にあるのかを調べている。人間は睡眠中に深い睡眠、レム睡眠、浅い睡眠といったように複数のステージを行ったり来たりしていることがわかっている。眠りに入ってから4時間くらいまでは特に深い睡眠が多く、以降はレム睡眠が増えていく、最後には覚醒して目が覚める。

深い睡眠、レム睡眠、浅い睡眠にはそれぞれ心身回復の主な目的が違うと考えられている。心拍数の変化からどのステージにあり、肉体的な回復、神経系の回復、精神の回復などがどの程度進んだのかが推測できると考えられている。睡眠トラッキングデバイスが表示するのはこうしたデータだ。

睡眠トラッキングを備えたデバイスでも、提供してくれる睡眠の質の分析内容には製品ごとに差がある。それこそ睡眠時間だけといったものもあれば、肉体的な回復がどの程度か提示するもの、神経系の回復がどの程度か示してくれるものまである。

人とは信じたくないものは信じないので、スッキリしていなくても睡眠時間が十分であれば心身は回復していると思い込みたいものだ。しかし、実際には神経系が回復せずに疲れやすいとか、頭の回転がどうも悪いとか、そうしたことはまま発生している。睡眠トラッキングを使うと、こうした状況を数値化し、自分の状況を客観的に捉えやすくなる。

どのようなガジェットを選べばよいか

現在では、睡眠トラッキング・モニタリングを行うガジェットはいくつもの選択肢がある。睡眠トラッキングを専門にしたデバイスもあれば、スマートウォッチのように複数の機能を備えたガジェットの機能として睡眠トラッキングを提供しているものもある。

いくつもの候補があるので迷ってしまうが、次の機能が提供されている、または、満たしているかを判断基準として検討するのが最初のステップとしては妥当だと思う。

  • 入眠および起床を自動的に判断する機能を備えていること
  • 睡眠ステージ(深い睡眠、レム睡眠、浅い睡眠、覚醒)を計測する機能を備えていること
  • 自律神経(交感神経・副交感神経)の活動具合を計測する機能を備えていること
  • 数日間は充電しなくても稼働するほどはバッテリーが持つこと

この基準でデバイスを絞り込んでいくと、「眠りの質」をQoL改善に活用できるレベルのデータを集計していくことができるだろう。

最終的には、好みで自分の好きなガジェットを選ぶのが基本ではある。身につけ続けて計測を続けることに意味があるので、自分のお気に入りではないと続かないからだ。続けないよりは続けた方がマシであり、自分が好むガジェットであることは大前提だ。