国立天文台およびアストロバイオロジーセンター(ABC)は、すばる望遠鏡に搭載した地球大気の揺らぎを高度に補正する超補償光学装置「SCExAO(スケックスエーオー)」を用いた観測から、新たな太陽系外惑星(系外惑星)「HIP 99770 b」の直接撮影に成功したことを発表した。
同成果は国立天文台 ハワイ観測所のThayne Currie(セイン・キュリー) 特別研究員、アストロバイオロジーセンター長の田村元秀 特任教授(国立天文台 特任教授/東京大学 大学院理学系研究科 天文学専攻 教授)、アストロバイオロジーセンターの葛原昌幸 特任助教、国立天文台の鵜山太智 特別研究員、国立天文台 ハワイ観測所の工藤智幸氏、国立天文台の西川淳 助教、同 林正彦 名誉教授ら国際研究チームによるもの。詳細は米国の科学雑誌「Science」に2023年4月13日付で掲載された。
これまでの観測から系外惑星は5000個を超す数が発見されているが、そのほとんどが間接的な観測によるもので、系外惑星からの光を直接画像として捉えたものは、そうした系外惑星が明るい恒星の近くを周回する暗い天体であることから、観測対象を絞り込むことが難しいなどの理由により20例ほどに留まるという。
そうした中、2013年にEuropean Space Agency(ESA:欧州宇宙機関)が位置天文観測器「ガイア(Gaia)」を打ち上げ、先任の衛星「ヒッパルコス」との精密なアストロメトリ(位置天文学)のデータを利用することで、惑星が存在する間接証拠を恒星の位置のふらつき(加速運動)から先に得ておき、有望天体のみを大型望遠鏡と超補償光学を用いて直接撮像する手法が可能となり、すばる望遠鏡でも2022年に惑星ほど軽くはないものの、伴星型の褐色惑星をヒアデス星団に発見したことを報告していたという。
今回、国際研究チームは、 SCExAOとこのアストロメトリを組み合わせる手法に基づき、系外惑星「HIP 99770 b」の発見(直接撮像)に成功したという。主星は、はくちょう座の方向130光年の距離にあり、見かけの明るさが4等級と肉眼でも見える太陽の2倍程度の重さの恒星「HIP 99770」で、HIP 99770 bは、この恒星から太陽-地球間の17倍離れた距離を周回していること、ならびにその質量は木星の質量の15倍(誤差の範囲は±1)であることが推定されたという。従来の直接撮像観測では、惑星の明るさをモデルと比較することで惑星質量を推定したため大きな誤差が生じていたが、今回は恒星のふらつきのデータを加味した力学質量と明るさに基づく質量の両方の情報から、1木星質量程度の誤差で質量を求めることができたという。
なお、国際研究チームによると、HIP 99770 bは、主星からの距離が近く、主星との明るさの差(コントラスト)も大きいため、将来のローマン宇宙望遠鏡や、TMTなどの30m級望遠鏡の高いコントラスト性能を検証する上で最適な天体となることが期待されるとしているほか、将来的な第二の地球を撮影するための技術としても有望だとしており、今後の同様の観測方法の発展と、多くの系外惑星の発見が期待されるとしている。