名古屋大学(名大)は4月11日、ナノグラフェンを効率的かつ迅速に合成するための新手法として、リチウムを用いたメカノケミカル脱水素環化反応の開発に成功したことを発表した。

  • 今回の研究のイメージ

    今回の研究のイメージ(出所:名大プレスリリースPDF)

同成果は、名大大学院 理学研究科の伊藤英人准教授、名大 トランスフォーマティブ生命分子研究所の伊丹健一郎教授、同・藤代栞奈大学院生らの研究チームによるもの。詳細は、米国化学会が刊行する機関学術誌「Journal of the American Chemical Society」に掲載された。

ナノグラフェンは、ベンゼン環が平面上に複数つらなった芳香族炭化水素の総称だ。「多環芳香族炭化水素」とも呼ばれ、半導体材料や発光材料となりうることなどから、有機電子材料をはじめとした機能性材料への応用が期待されている。

実はナノグラフェンは、燃焼後のすすや石油中にも含まれているなど、身近な自然界にも豊富に含まれる物質だ。しかし、実際に基礎研究や材料へ応用するには、有機合成によって構造を原子レベルで精密に制御することが求められていた。そこで研究チームは今回、効率的かつ迅速なナノグラフェン合成を可能とする新たな手法を開発したという。

今回の研究では、ナノグラフェン合成の最終工程の脱水素環化(通称「グラフェン化」)において、空気中で比較的安全に取り扱えるリチウムを用いて、有機溶媒をほとんど使わずに(従来の250分の1以下)固体状態での迅速合成(最短5分)が可能となる新手法が開発された。

  • リチウムを用いたメカノケミカル脱水素環化法

    リチウムを用いたメカノケミカル脱水素環化法(出所:名大プレスリリースPDF)

研究チームによると、新手法の成功の鍵は、「ボールミル」と呼ばれるステンレス製の粉砕機で、固体反応剤同士を有機溶媒に溶かすことなく機械的に混合攪拌するメカノケミカル反応を採用したことにあるという。同手法は、市販のリチウムワイヤから切り出された金属リチウム片の使用を可能にしただけでなく、従来法に比べて、コスト・反応時間・安全性・大量合成の可能性のすべての点で優れた手法といえるとしている。

  • 溶液中でのリチウムを用いた反応(上)と今回の固体メカノケミカル脱水素化反応(下)との比較

    溶液中でのリチウムを用いた反応(上)と今回の固体メカノケミカル脱水素化反応(下)との比較(出所:名大プレスリリースPDF)

また、これまで合成不可能だと考えられていた「クインテリレン」(ナフタレン骨格が5つつらなった純粋な無置換のリレン化合物)をはじめとする、20種類以上のナノグラフェンの短時間・高効率合成も可能になったとする。