九州大学(九大)は4月11日、福島第一原発から南西方向に約2.8km離れた、事故後閉鎖されている小学校の建物内部を2016年に初めて調査して、独自で開発した手法を用いて廊下に残留する粉塵に含まれる「高濃度放射性セシウム含有微粒子」(CsMP)を定量することに成功したことを発表した。
またその結果、CsMPが1m2から集められた粉塵中に、2400個以上含まれる場所、粉塵全体の放射能のうち約39%がその微粒子由来の場所が存在したことも併せて発表された。
同成果は、九大大学院 理学研究院の宇都宮聡准教授、同・大学 理学府の笛田和希大学院生(研究当時)、同・小宮樹大学院生(研究当時)を中心に、米・スタンフォード大学、仏・ナント大学、フィンランド・ヘルシンキ大学、東京工業大学、筑波大学、国立極地研究所の研究者も参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、環境中の化学物質に関する全般を扱う学術誌「Chemosphere」に掲載された。
福島第一原発の事故で放出された放射性核種の中には1000兆~1京ベクレル程度の放射性セシウムが含まれていたことがわかっている。セシウム-137の半減期が約30年のため、事故から12年が経過した現在でも、原発近傍の表層環境には放射能が残っている場所もあるが、除染などにより放射能が低減した帰還困難区域の一部では、制限が解除されてきている。
しかし近年になって、水に溶けにくく(難水溶性)、放射性セシウムが高濃度に濃集する直径数μm程度のCsMPが、関東地方の広い範囲まで飛散したことがわかってきた。CsMPはケイ素、鉄、亜鉛、セシウム、酸素を主成分に持ち、セシウムの濃度は高いものだと数十%にも及ぶ。それらを吸引して生体内部に沈着した場合、局所的に高い放射能の影響があると考えられることから、その存在が懸念されていたという。
微粒子であるCsMPには、大気とともに建物内部に流入して沈着するものもあり、屋内における粒子の量や分布を知れば、安全性に関する指標の1つになるとされる。しかしこれまで、屋内の粒子数に関するデータはまったく報告されておらず、CsMPの定量的計測法の開発と建物内部での存在量の解明が望まれていた。