名古屋大学(名大)は4月11日、自然界の基本定数である「物理定数」が、新しい素粒子や未知の力によって影響を受ける可能性があることを発表した。
同成果は、名大 素粒子宇宙起源研究所の北原鉄平特任助教(名大 高等研究院 特任助教/高エネルギー加速器研究機構 素粒子原子核研究所 特別助教兼任)に加え、フランス、オランダ、イスラエル、米国の研究者が参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、米国物理学会が刊行する機関学術誌「Physical Review Letters」に掲載された。
素粒子がどのように振る舞い、相互作用し、原子核や原子などの構造を形成するのかを予測する素粒子標準模型(標準理論)は、多くの場合、素粒子や原子核、原子に関するさまざまな精密な測定結果と一致することが確認されており、現時点ではとても成功した理論として知られている。
こうした標準模型をはじめとする理論モデルは、自然界の物理法則を反映した数式を内包するように構成されている。この数式に不可欠なのが、電子の質量や光速などの値である物理定数だ。物理定数は、一度確認されたらその数値が不変であるわけではなく、標準模型の予測とさまざまな精密実験の結果ができるだけ一致するよう、科学技術データ委員会(CODATA)によって数年ごとに調整されている。この時、自然界の物理法則として、標準模型は厳密に正しいという前提のもとに調整が行われる。
今回の研究が指摘するのは、標準模型を超えた新しい素粒子や未知の力を想定した場合、この前提が崩れる可能性があることだとする。これは、新たな粒子や未知の相互作用の兆候の発見といった、標準模型を書き換える必要があるような具体的な話ではないとしており、物理定数の調整と新物理の探索を同時に矛盾なく行うことができる新しい枠組みを、詳細に議論したという。
また、CODATAの調整の中で、いくつかの精密実験のデータ(たとえば陽子半径や水素の2S・8D遷移)が、標準模型の予測と完全には一致しないことが知られている。今回の研究では、提案された新しい枠組みを用いることで、未知の力を加えることにより、これらの不一致を修正できることが指摘された。
この未知の力として、たとえば新たなヒッグス粒子を導入することで得られる6種類の新物理模型についての検討が行われた。そして、そのうちの1つの模型において、CODATAの調整の中に見られた不一致が解消されたという。また同時に、この未知の力の存在によって、既存の物理定数のいくつかの真の値が、現在のCODATAの調整値から大きくずれている可能性が浮上してきたとする。
研究チームの北原特任助教は、今回の研究結果に対し、「誤解を恐れずにいえば、これまでは標準模型を前提にして決めた物理定数をもとにして新物理を探してきました。この研究結果は、もし新物理が本当にあるとすれば、この普段の新物理探索の枠組みを信頼できなくなる可能性がある、ということを示しています。この研究の価値は、現在物理定数を決めるために使われている精密測定を、新物理を探すためにも使えるように枠組みを整理したことにあります。ただし、今回の研究結果から直ちに新粒子の発見と解釈してはいけません。素粒子の加速器実験による測定データには、私たちが提案した仮説の新物理を否定するものがあります」とコメントしている。