天敵から逃れるために刺激を与えるとピクリとも動かなくなる「死んだふり行動」をする虫の一つ、コクヌストモドキは、生息している緯度が高くなるほど行動が頻繁になり、持続時間も長くなることがわかった。岡山大学学術研究院環境生命科学学域の松村健太郎研究助教らが明らかにした。死んだふり行動は昆虫学者のファーブルや進化論で知られるダーウィンも興味を持った行動だが、その頻度や時間が南北にかけて変化していく「緯度クライン」を示したのは世界で初めてという。
コクヌストモドキは世界中に分布する米や小麦粉など穀物を食べる体長4ミリほどの害虫。ハエトリグモやサシガメといった天敵に出会うと死んだふりをして、相手の興味がそれたすきに逃げる行動が知られている。松村研究助教らは、2016年~2021年に北は青森県五所川原市から南は沖縄県西表島まで全国38地点のコイン精米機を巡り、コクヌストモドキを集めた。その後、同じ環境で飼育を続け、孫に当たるコクヌストモドキを地点ごとに40~176匹育て、実験に使用した。
実験では、コクヌストモドキを仰向けに置き、細い木の棒で腹部をつつき、死んだふり行動が見られるか確認。死んだふりを始めたら、ストップウォッチで動きが見られるまでの時間を測った。
38地点の2262匹を調べると、91%が死んだふりをした。死んだふりをする時間は、平均115秒だった。長いものだと4700秒間(約1.3時間)も死んだふりを続けていた。死んだふりをする頻度や時間と緯度との関係を調べると、南よりも北で頻度が高く、時間が長くなっていた。
コクヌストモドキの死んだふり行動に緯度クラインが見られる原因として、「地域による個体密度の違いや、コクヌストモドキの捕食者の捕食戦略の違いが原因としてあるかもしれない」と、松村研究助教は話す。個体密度については、虫などでは暖かい低緯度地域では同じ種の仲間が多く、寒い高緯度地域では少なくなりやすい傾向があるとされる。仲間が多く高密度になると、あまり死んだふりをしなくても、捕食者がたくさんいるほかの仲間に気をとられ、逃げるチャンスが増す可能性が高くなると考えられる。
捕食戦略の違いについては、もしも捕食者が、獲物をじっと待って来たとたん食べてしまう「待ち伏せ型」の戦略をとる場合、死んだふりを長くしても効果がない。一方で捕食者が、獲物を探し回り、獲物の動きを見て捕食する「探索型」の戦略をとる場合、死んだふりを長く続けることが有効となる。捕食者が「待ち伏せ型」か「探索型」かが緯度に応じて変化していればコクヌストモドキの死んだふり行動に影響を与えている可能性があるという。
研究グループは、緯度によって昆虫の捕食回避行動が異なるという今回の知見が、より効率の良い害虫防除法を開発する上でも重要と見ている。この結果は3月29日、英国王立協会の生物学専門誌「バイオロジー・レターズ」に掲載された。
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