この3年あまり、人類は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に悩まされてきた。「ウイルス」にすっかり悪者のイメージが定着しているが、そもそも何のこと? この疑問に答えるポスター「ウイルス 小さくて大きな存在」が完成し、文部科学省が公開した。学習資料として毎年作成する「一家に1枚」シリーズの第19弾。17~23日の科学技術週間に合わせたもので、ウイルスが自然環境を支え、また人類が有効活用しているといった事実にも触れ、認識を深める一枚となっている。
ポスターはまず、ウイルスが遺伝物質とタンパク質などからなる微小な複合体であるとの基本を説明。「生物と非生物の中間」などと、生物である細菌との違いを解き明かす。自然界と都市空間が広がるパノラマイラストの中で「自然環境中」「人間社会へ」「ウイルス感染症と社会」「研究・活用」に分け、生物進化の原動力になってきたこと、生態系の回復や生物の共生関係の構築に関わっていること、ヒトにさまざまな病気を引き起こしていること、農作物や水産物に被害を与えていることなどを解説。感染拡大を防ぐ人類の取り組みの一方、脳腫瘍の治療や人工多能性幹細胞(iPS細胞)の作製、害虫の防除などに有効活用されている面も紹介している。
「ポスターの横幅を髪の毛の太さだとすると、こちらのイラストくらい」としてさまざまなウイルスを描き、小ささを実感できる工夫を施した。歴史をさかのぼり、ウイルス感染症が万葉集や日本書紀に記されていることや、1892年にウイルスの正体が発見されたこと、1980年に天然痘の根絶が宣言されたことなども振り返って提示。「ウイルスを意識した上で、暮らしやすい社会についてみんなで考えてみよう!」と呼びかける。
話題性の高い新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)を中心に据えず、あえて基本に立ち返り複眼的な理解を目指す構成としたことで、長期に活用できる資料に仕上がった。今年は20件のテーマ案からウイルスが選ばれ、大学院生を含む若手を中心に、組織を超えた協力で制作が進んだという。
「一家に1枚」は2005年の「元素周期表」を皮切りに文部科学省が毎年、作成しているもの。シリーズ化して「ヒトゲノムマップ」「光マップ」「たんぱく質」「日本列島7億年」など19枚が公開中だ。「大人から子どもまで部分的にでも興味を持たせるもの」「見た目がきれいで、部屋に張っておきたくなるもの」「基礎的、普遍的な科学知識を中心とするもの」「身近な物や事象との関連付けをして、親しみを持てるもの」を基本コンセプトとしている。
新元素「ニホニウム」の発見やゲノム研究の進展など、公開後の状況変化に応じ改訂しているのも特徴だ。元素周期表は実に13版を数える。昨年公開した「ガラス」は英語版とポルトガル語版も作成するなど、外国語に対応したものもある。
インターネットの文部科学省「科学技術週間」のページからPDFファイルをダウンロードして利用できるほか、同週間に合わせ、協力する全国約300の科学館や博物館、研究機関などが印刷版を配布する(なくなり次第終了)。特設サイトも公開した。
科学技術週間は1960年に制定。今年も各地の施設が講演会や実験教室、企画展、見学会などを実施する。永岡桂子文科相は7日の会見で同週間とポスターを紹介し「ぜひ多くの皆様に科学技術に触れ、興味を持っていただきたい」と述べた。
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