千葉大学は4月6日、銀河中心超大質量ブラックホールにガスが降着し明るく輝く天体であるクェーサーが、近接しペアとして存在する「二重クェーサー」を、ふたご座の方向におよそ108億光年先の遠方宇宙で発見したことを発表した。
同成果は、米・イリノイ大学のYu-Ching Chen大学院生、同・Xin Liu准教授、千葉大 先進科学センターの大栗真宗教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」に掲載された。
宇宙に存在する銀河の中心には、太陽の質量の数十万から数十億倍の大質量ブラックホールが存在していると考えられている。大質量ブラックホールの質量は、それらが存在している銀河の性質と強い相関を持つ。そのことから、それぞれ影響を及ぼしながら成長してきたと考えられているものの、その詳細については解明されていない。
銀河やブラックホールは、どちらも合体を繰り返しながら巨大銀河や大質量ブラックホールにまで成長した、という説が有力だ。この説が正しければ、遠方宇宙には銀河合体に付随した近接する超大質量ブラックホールのペアが多数存在し、ブラックホールの一部がクェーサーとして観測されるはずだと考察された。遠方宇宙で二重クェーサーが観測されれば、銀河やブラックホールの成長過程を直接捉えた貴重な例となるが、観測機器の性能の制約もあり、これまで発見されていなかった。
だがこれまでの観測から、研究チームは二重クェーサー候補を発見していた。クェーサー自体もそう多い天体ではないため、二重クェーサーは非常に希少である。そこで今回は、ハッブル宇宙望遠鏡、ケック望遠鏡、ジェミニ望遠鏡、超大型干渉電波望遠鏡群、チャンドラX線観測衛星のデータを用いた多波長解析によって、二重クェーサーであるかどうかを詳しく確認したという。
そして多波長解析の結果、銀河合体に付随した真の二重クェーサーであることが確認された。またハッブル宇宙望遠鏡の画像では、それぞれのクェーサーに付随する銀河同士の合体による潮汐相互作用の兆候も確認されたとする。
2つのクェーサーの間はおよそ1万光年離れているが、遠方宇宙においてこれだけ接近していて、銀河同士がお互いに影響を及ぼし合っている二重クェーサーは初めての発見例とする。なお、観測された2つのクェーサーの大質量ブラックホールの質量は、どちらも太陽質量の10億倍ほどと見積もられている。
理論的には、巨大銀河は銀河同士の合体を繰り返して形成され、またクェーサーの活動も銀河の合体によって誘起されると考えられている。今回発見された天体は、こうした理論予想と整合する初の天体となる。そして銀河合体の後、それぞれの超大質量ブラックホールは星との重力的相互作用によって中心に沈んでいき、およそ2億年後には、ブラックホール連星を形成すると考えられている。
今回の二重クェーサー発見までは、まず、欧州宇宙機関が2013年に打ち上げた位置天文観測専用衛星「ガイア」によって候補が発見された。同衛星は、主目的は天の川銀河の3次元地図を作ることであり、天体の位置やその時間変化を詳細に観測することが可能だ。
しかし、クェーサーの明るさは大質量ブラックホールへのガスの降着率の時間変化によって変動する。今回のような二重クェーサーはガイア衛星の空間分解能では2つに分離できず、1つの天体として観測されてしまう。ただし、その中心位置がクェーサーの明るさの変動に従って揺れ動くため、中心が揺れ動いている天体のリストから二重クェーサー候補が選ばれた。今回の研究では、こうして選ばれた候補を多波長追観測することで、遠方宇宙の二重クェーサーを効率的に発見できることも実証されたとしている。
研究チームによると、今回見られたような銀河合体の兆候を捉えるためには、近赤外波長領域での高空間分解能観測が鍵となることから、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡ならより効率的な二重クェーサー候補の追観測が可能となるという。
また、将来打ち上げ予定の広視野宇宙望遠鏡「ナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡」は、クェーサー探査が可能な広視野と、二重クェーサーを分離できる高い空間分解能を両立しており、こうした二重クェーサーの研究が大幅に進展することが期待されるとしている。