AMDは4月6日、「Alveo MA35D Media Accelerator」を発表した。この製品は、Alveoシリーズとしては初の、「FPGAを搭載しない」製品でもある。このMA35Dに関し、事前説明会の資料を基にご紹介したい。
まずマーケット概況から。VideoのLive Streaming市場はこの先も堅調に拡大するとしており(Photo01)、ここに向けた製品はまだまだ伸びるとしているのだが、従来型のオンデマンド型のモデル(Photo02)はPhoto01にもあったように全体の3割でしかない。
既存のCDNなどは基本、この1:沢山のオンデマンドモデルをベースに構築されている訳だが、今後は多数:多数のインタラクティブモデルが主流になってゆく、というのが同社の見解である(Photo03)。
さて、こうしたインタラクティブモデルに向けて同社が今回発表したのが「Alveo MA35D」である。最大の特徴は、Alveoを名乗りながらも実際に搭載されているのはASICであり、FPGAやAdaptive Compute Device(SoC FPGAのXilinx的な名称)は一切搭載されていないことだ。
つまり従来のAlveoシリーズが特徴としていたProgrammabilityを完全に投げ捨てた製品となっている。その代償として得られるのは、高い処理性能と低いLatency、省電力、および低コストである。ことMedia Encode/Decodeに限って言えば、フォーマットは完全に決まっているし、アルゴリズムも(まだ発展する余地が無いとは言わないが)ほぼ固まっている。AV1の様な新しいフォーマットに関しても、AMDというかXilinx時代にほぼEncode/Decodeの仕組みは確立されており、その意味ではFPGAにするメリットは余り多くない。であれば、FPGAを使う事に起因する低いロジック密度と(相対的に)高い消費電力、これによりもたらされる高コスト性を、ASICに置き換える事で高性能/低Latencyと省電力、これらによりもたらされる低コストが手に入れられる訳で、これは悪い選択ではない。
実際同社が2020年6月に発表したAlveo U30と比較した場合、4倍のチャネル密度が実現できる、としている(Photo05)。
実際Alveo U30は40W未満の消費電力で1080p30fpsのH.264を同時16chエンコード可能だったのに対し、Alveo M35Dでは35Wで1080p60fpsのH.264を同時32chエンコード可能であり(Photo06)、同じサーバシャーシあたりのエンコード性能が大幅に上がる結果として、CAPEX/OPEXの大幅な節約になる、としている。
さてその肝である5nm ASICであるが、その概略がこちら(Photo07)。確認したところ、殆どのIPはFPGA向け(Alveo U30/U50だけでなく、その他の製品向けも含む)に提供してきたものを「改良したもの」を搭載している、としている。具体的に言えばVQ(Video Quality)の制御周りで大分改良を行ったとしている。またAV1については、すでにRadeon RX 6000シリーズでDecoderが、Radeon RX 7000シリーズでEncoderが搭載されており、これを搭載したものと思われる。
このVQ周りと言うのはこちら(Photo08)が判りやすい。要するにEncode出力に対して複数の指標でVQを算出し、ターゲットに合わせて調整を行うというものだ。
ところでPhoto07に戻ると、質疑応答の中でちょっととんでもない話が飛び出した。というのはブロックで言えばAI Processorの下とPCIe Gen5 I/Fの上に、Quad-Core Microprocessorというブロックが合計2つあるのだが、てっきりこれはZynq Ultrascale+などと同じようにCortex-A72か何かだろうと思ったら、何とRISC-Vプロセッサとの事。ただそれが内製なのか外製なのか、どの程度の性能なのかなどについては一切未公開。性能については「M35D内部で必要な様々な処理をホストCPUからオフロードするに十分な処理性能を持っており、またEncode Algorithmの改良に対応する」という返事だった。
前半はともかく後半は? というと、MA35Dは一切FPGA Fabricを搭載していないので、AV1を含むEncoderで実装されているEncode Algorithmは固定であり、今後新たなAlgorithmが開発されても、これには対応できない。その場合はRISC-Vプロセッサでこの新Algorithmを実行させることを想定している、という話である。ここから察すると小規模ながらVector Engineを持ったRV64ベースのコアに思えるが、この辺りをユーザーに公開するつもりは今のところなさそうだ。
AMDは実はRISC-V InternationalのStrategic Member(上から2つめ:ちなみにIntelはPathfinderをやってた関係もあってか、一番上のPremier Memberである)になっており、なので自社で開発を行っていても不思議ではない(し、Intelの様に研究目的でRISC-Vコアを使ったりは恐らくしているだろう)が、量産製品に導入してきたのはちょっと意外だった。今後も、直接見えるところ「以外」に、広範に使われてゆくかもしれない。
話を戻すと、H.265やAV1を利用可能とすることで、画質を落とさずにビットレートを半分近くまで下げられるとしており(Photo09)、またビデオパイプラインにAIによる処理を加える事で、画質を改善できる(Photo10)としている。
EPYCなどによるエンコードも、冒頭に出て来た30%のマーケットには引き続き有効であるが、ソースの数が大きくなるとMA35Dの方が圧倒的に有利、というのがAMDのメッセージである。Alveo M35Dは現在サンプル出荷中で量産時期は今年第3四半期の予定。価格はこのスライドでは公開されていないが、1595ドルを予定している模様だ(ちなみにAlveo U30は799ドル)。