宇宙航空研究開発機構(JAXA)は3月20日、小惑星探査機「はやぶさ2」のプロジェクト全体を総括する記者説明会を開催。相模原キャンパスに主な関係者が勢揃いし、それぞれプロジェクトを振り返った。また、NASA(米国航空宇宙局)の小惑星探査機「OSIRIS-REx」が9月に地球帰還予定だが、そのサンプルを受け入れるクリーンルームも公開された。
この記者説明会は、初期分析の論文が一通り出揃ったことを受け、実施したもの。プロジェクトの各出来事や成果などについては、すでに多くの記事で紹介されているので、この記事では関係者のコメントを拾う形でまとめることにしたい。
改めて振り返るプロジェクトの成果
はやぶさ2は、小惑星リュウグウへの2回のタッチダウンに成功。カプセルはオーストラリアに無事着陸し、日本へ輸送、その中からは、5.4gものサンプルが見つかった。初期分析では、液体の水が発見されるなど、多くの科学成果を発信。探査機本体は現在も飛行中で、新たな目的地に向かって旅を続けているところだ。
はやぶさ2の理学成果については、プロジェクトサイエンティストである渡邊誠一郎氏(名古屋大学大学院 環境学研究科 地球環境科学専攻 教授)が説明。トピックとして、リュウグウでのランデブー観測、人工クレーターが生成された衝突実験、持ち帰ったサンプルの分析、の3点をあげ、概要をまとめて紹介した。
なお今後についても言及。OSIRIS-RExが持ち帰る小惑星ベヌー(ベンヌ)のサンプルとリュウグウのサンプルを比較することで、「どこが共通でどこが個別なのか分かる」と期待した。また彗星からのサンプルリターンも期待しているそうで、「10年以上かかるミッションになる。海外との協力や、国内での計画を待ちたい」と述べた。
はやぶさ2の元プロジェクトマネージャであり、プロジェクトの解散後は「はやぶさ2拡張ミッション」のチーム長を務める津田雄一氏は、工学成果を紹介。「工学的に最大の挑戦だった」という2回目のタッチダウンについて触れ、「工学的にも理学的にも価値が高い地下物質を採取できた。チームにも思い入れの強い成功だった」と振り返った。
カプセル回収班だった澤田弘崇氏(JAXA国際宇宙探査センター 火星衛星探査機プロジェクトチーム ファンクションマネージャ)は、開発を担当したメタルシールについて言及。これでサンプルの気密性を保ち、地球大気で汚染させることなく相模原まで輸送できたのだが、「世界でも日本だけしかできていない」と胸を張った。
続いてキュレーションについて、統括する臼井寛裕氏(JAXA宇宙科学研究所 地球外物質研究グループ長)は、注目ポイントとして、「世界で初めて近赤外顕微鏡をキュレーションに導入したこと」を紹介。リュウグウサンプルは黒っぽい粒子ばかりだが、近赤外で見ることで「価値あるものを選りすぐってサイエンス側に渡すことができた」とした。
そして全世界に公開したカタログについては、「NASAにも引けを取らないどころか、凌駕していると自負している」とコメント。サンプルリターン探査での優位性を今後も維持するため、JAXAは2029年に「火星衛星探査計画」(MMX)の地球帰還を計画しているが、キュレーションも「それに向けて邁進しているところ」とした。
2021年5月末から1年間実施された初期分析では、総量の6%にあたる約0.3gのサンプルを使用。国内外約400名の研究者が6つのサブチームに分かれ、サンプルの分析にあたった。その成果は多くの論文としてまとめられ、太陽系の起源や、地球の水・有機物の供給源などへの新たな理解に繋がった。
なお、探査機の現在の状態は正常とのこと。津田チーム長によれば、各機器に引き続き劣化は見られるものの、「元気」な状態だという。今年後半には、探査機が太陽の裏側に隠れて地球からの通信が難しくなる「合」(ごう)運用を控えており(はやぶさ2にとっては2回目)、この難しい期間を乗り切るべく、準備を進めているそうだ。
新たな小惑星サンプルの受け入れ準備も
NASAのOSIRIS-RExが今年9月24日(現地時間)に地球へ帰還する。同探査機はベヌーに着陸し、250g(±101g)ものサンプルを採取できたと見られている。その一部は日本にも提供されることになっており、現在、相模原キャンパス内の地球外試料キュレーションセンター(ESCuC)にて、受け入れ準備が進められているところだ。
この施設は、はやぶさ2が持ち帰ったリュウグウサンプルのキュレーションでも使われている。ベヌーのサンプルを受け入れるクリーンルーム「第3惑星試料処理室」は、リュウグウ用の部屋の隣に設置される予定だという。まだクリーンチャンバなどの機器は無く、グレーチング(格子)の床だけの状態であったが、今回、この様子が公開された。
ベヌー用のクリーンチャンバは、L字に配置される。リュウグウ用はU字状だったが、臼井氏によれば、この違いは真空チャンバが無いことによるという。はやぶさ2のサンプルは地球大気に触れないままここに運び込まれるため、真空下でコンテナの開封が行われたが、OSIRIS-RExには気密性がないため、ここで真空にしてもあまり意味がない。
ベヌー用のクリーンチャンバは、7月くらいに設置される予定とのこと。真空チャンバが省略されていること以外は、リュウグウ用に近い構成ということだ。
またそのほか、新たに整備された「第3試料準備室」の様子も見ることができた。この部屋は、主にMMXが持ち帰るサンプルを受け入れる前準備で使う計画だが、すでにX線CTスキャナなどを導入しており、リュウグウサンプル等で使うことも考えているとか。