米国の宇宙企業「ヴァージン・オービット」は2023年4月3日、連邦破産法第11条(チャプター11)の適用を申請した。売却先を探し、再建を目指すという。

同社は小型ロケット「ローンチャーワン」を運用し、これまでに6機中4機が打ち上げに成功、計33機の衛星を軌道投入した実績をもつ。一方で、かねてより資金繰りが悪化しており、新たな資金調達にも失敗していた。

  • ヴァージン・オービットの「ローンチャーワン」ロケット

    ヴァージン・オービットの「ローンチャーワン」ロケット。飛行機で上空から発射される、空中発射型のロケットであることを特長としていた (C) Virgin Orbit/Greg Robinson

ヴァージン・オービットの破産申請

ヴァージン・オービット(Virgin Orbit)は米国カリフォルニア州に拠点を置く宇宙企業で、実業家のリチャード・ブランソン氏率いるヴァージン・グループの傘下にある。

同社が運用する「ローンチャーワン(LauncherOne)」ロケットは、飛行機から空中発射できることを最大の特長としている。打ち上げられる軌道の自由度が高かったり、専用の発射場がいらず、設備などを整えればどこの空港・飛行場でも運用可能であったりなど、高い柔軟性と機動性をもつ。

高度500kmの太陽同期軌道に300kgの打ち上げ能力をもち、近年需要が高まっている小型・超小型衛星の打ち上げをビジネス化することを目指していた。

2020年5月の初飛行は失敗に終わるも、2021年1月には2号機にして初の成功を収め、その後は4機連続で成功した。打ち上げられた衛星数は33機にのぼる。

米国宇宙軍や日本の宇宙ベンチャー「QPS研究所」などから衛星の打ち上げを受注し、2021年には米ナスダック市場に上場した。しかしその一方、かねてより資金繰りに窮しており、2022年は3310万ドルの収益を上げたものの、純損失は1億9120万ドルにものぼったという。さらに、今年1月9日には6号機の打ち上げが失敗に終わり、より資金繰りが悪化した。

その後、新たな投資を募っていたものの奏功しなかった。一部報道では、テキサス州のベンチャーキャピタリストと約2億ドル規模の資金調達について交渉していたものの、決裂したという。

3月16日には、業務を一時停止し、ほぼすべての社員を一時解雇していた。さらに3月30日には約85%の社員を解雇するとも発表していた。

そして日本時間4月4日(米国時間3日)、同社は連邦破産法第11条(チャプター11)の適用を申請した。

ヴァージン・オービットのダン・ハート(CEO)は声明で、「財務状況に対処し、追加の資金調達のために多くの努力を続けてきましたが、最終的にビジネスにとって最善のことをしなければならないと決めました」と述べている。

チャプター11は日本における民事再生法に近いものであり、同社では事業の売却、再建を検討している。

ハートCEOは「私たちのチームが造り上げた最先端のロケット打ち上げ技術は、売却のための大きなアピールポイントだと信じています。現段階では、チャプター11のプロセスが、効率的で価値を最大化する売却方法であり、そして売却を完了するための最善の道であると考えています」と語る。

また、資産などを保護しつつ売却プロセスを進めるために、ブランソン氏の投資会社ヴァージン・インヴェストメンツから3160万ドルの資金調達を確保したとしている。

ただ、超小型ロケットの市場は当初の期待ほどは伸びておらず、事実上、米ロケット・ラボが独占しているほか、大型ロケットによる相乗り打ち上げ(まとめ打ち上げ)が主流となっている。ヴァージン・オービットなどと並んで超小型ロケットを開発していた「アストラ・スペース」や「ファイアフライ・エアロスペース」、「レラティヴィティ・スペース」といった企業も、中型・大型クラスのロケットの開発に焦点を移しつつある。こうした中で、ヴァージン・オービットが再建できるかどうかは未知数である。

同社はまた、ローンチャーワンが空中発射であることの利点を活かし、米国のほか、英国のコーンウォール宇宙港や日本の大分空港など、世界各地から、高頻度かつ柔軟な打ち上げサービスを行うことを計画していた。コーンウォールや大分県といった自治体も、宇宙ビジネスの誘致、地域の活性化といった面で大きな期待を寄せていたが、その先行きは不透明なものとなった。

  • ローンチャーワンの打ち上げ試験の様子

    ローンチャーワンの打ち上げ試験の様子 (C) Virgin Orbit/Greg Robinson

ヴァージン・オービットとは

ヴァージン・オービット(Virgin Orbit)は2017年に設立された企業で、小型・超小型衛星の打ち上げビジネスを目的としている。

リチャード・ブランソン氏が率いる英国ヴァージン・グループの一社で、もともとは2012年に、サブオービタル宇宙船を開発している「ヴァージン・ギャラクティック」の内部プロジェクトとして始まり、2017年に分社化され、ボーイングのバイス・プレジデントとして政府系衛星部門を率いていたダン・ハート氏を社長に迎え独立した。

同社が開発したローンチャーワン(LauncherOne、ランチャーワンとも)は、空中発射型のロケットであることを最大の特徴とする。ロケットはボーイング747、愛称「コズミック・ガール(Cosmic Girl)」の翼下に懸架されて高度約3万ft(約9km)まで運ばれ、投下されたのち、エンジンに点火して飛んでいく。

空中発射には、地上から発射するロケットと比べ、専用の発射施設がいらないなどいくつかの利点があり、打ち上げの低コスト化のほか、打ち上げの自由度、柔軟性、即応性を高めることができるとされていた。

ロケット本体の全長は約21mで、ケロシンと液体酸素を推進剤とする2段式のロケットである。また、オプションで3段目を追加することもできる。打ち上げ能力は地球低軌道に約500kg、太陽同期軌道に約300kgで、小型・超小型衛星の打ち上げに特化している。

打ち上げ価格については、かつては「1機をまるごと専有する場合で約1200万ドル」とされていたが、現在は価格が公表されておらず、正確な金額は不明である。

2020年5月に行われた初打ち上げは失敗に終わるも、2021年1月には2号機にして成功を収めた。その後は4機連続で成功し、打ち上げられた衛星数は33機にのぼる。

しかし、今年1月9日、ヴァージンの本拠地でもある英国本土からの初の打ち上げに挑むも失敗に終わった。過去、英国本土から衛星が打ち上げられたことはなく、成功すれば歴史的快挙となり、英国の宇宙ビジネスにとって大きなはずみにもなるはずだった。

  • 空中発射型のロケットであるローンチャーワンは、既存の空港でも最小限の設備で運用できるというメリットをもつ

    空中発射型のロケットであるローンチャーワンは、既存の空港でも最小限の設備で運用できるというメリットをもつ (C) Virgin Orbit/Greg Robinson

参考文献

VIRGIN ORBIT TO CONTINUE SALE PROCESS UNDER CHAPTER 11 PROTECTION | Virgin Orbit
Kroll Restructuring Administration