新潟大学(新大)は3月31日、国内の複数施設から収集された558名の脳脊髄液を解析し、診断に最適なバイオマーカーの組み合わせを解明した上で、その最適化された組み合わせを用いて、リアルワールドにおけるアルツハイマー病の有病率を明らかにしたことを発表した。
同成果は、新大 脳研究所 遺伝子機能解析学分野の春日健作博士(助教)、同・池内健博士(教授)らの研究チームによるもの。詳細は、老化の神経生物学を扱う学術誌「Neurobiology of Aging」に掲載された。
アルツハイマー病は、臨床的には緩徐に進行する物忘れを特徴とし、病理学的には脳内のアミロイドβ(Aβ)の沈着、タウの蓄積、神経細胞の減少(神経変性)を特徴とする。しかし、臨床症状と病理変化の一致率は高くないため、臨床症状からアルツハイマー病の病理変化を検出するには限界があるとされてきた。
アルツハイマー病診断において、脳脊髄液がそのバイオマーカーとして有用であることを、これまでの研究コホートで示してきたのが研究チームだ。特にAβ沈着マーカーとして「Aβ42」、タウ蓄積マーカーとして「リン酸化タウ」、神経変性マーカーとして「総タウ」を、それぞれ評価することで生前に脳内の病態を詳細に把握できることを発見している。
また、これまでにAβ沈着マーカーとして「Aβ42」単独ではなくAβ40を参照としたAβ42の相対量(Aβ42/Aβ40比)の有用性、および神経変性マーカーとして従来からの総タウに代わり「ニューロフィラメント軽鎖」の有用性もそれぞれ報告していたとする。
しかしこれまでの実臨床において、これらバイオマーカーの組み合わせによる診断への有用性に関する報告はなかったとする。そこで研究チームは今回、国内の複数の施設において、診断目的に採取された558名の脳脊髄液を用いて、これらバイオマーカーのリアルワールドにおける有用性を検証したという。
同研究では、2013年10月から2022年6月までの期間に診断目的で採取された558名の脳脊髄液を、まず臨床診断からアルツハイマー症候群と非アルツハイマー症候群に分類。そして脳脊髄液中のAβ42、Aβ42/Aβ40比、リン酸化タウ、総タウ、ニューロフィラメント軽鎖を測定した上で、その比較・解析が行われた。
Aβ沈着マーカーに関し、アルツハイマー症候群ではAβ42とAβ42/Aβ40比の一致率が高い一方、非アルツハイマー症候群ではAβ42が異常値を示すものの、Aβ42/Aβ40比は正常な見かけ上のAβ沈着を示す症例がおよそ4分の1も存在していたという。
神経変性マーカーに関しては、アルツハイマー症候群・非アルツハイマー症候群ともに、総タウよりもニューロフィラメント軽鎖の方が異常値を示す頻度が高く、ニューロフィラメント軽鎖は神経変性をより高い感度で検出するマーカーと考えられたとしている。
これらを組み合わせたところ、アルツハイマー症候群の約60%のみが生物学的アルツハイマー病と考えられ、残る40%弱は、脳内の病態は異なりながらも臨床的にアルツハイマー症候群と誤診されていると考えられたとする。また非アルツハイマー症候群のおよそ4分の1は生物学的アルツハイマー病と考えられ、非典型的アルツハイマー病もしくは別の疾病にアルツハイマー病が合併している症例が少なからず存在していることが示唆されたという。
この成果から研究チームは、脳脊髄液バイオマーカーを日常診療に活用することで、軽度認知障害から認知症の患者の発症原因がアルツハイマー病か否かを正確に診断し、適切な治療につなげられることが期待されるとする。また今後は、より簡便に採取できる血液を用いたバイオマーカーによる診断法の開発が望まれるとしている。