ルネサス エレクトロニクスは、高性能ワイヤレス製品に特化したファブレス半導体企業であるオーストリアのPanthronicsを買収すると発表した。買収額は非公開。規制当局による承認および合併契約に定める一般的な買収手続きを経て、2023年末までに取り引きを完了する見込みだという。

2014年に創業した同社はNFCに注力しており、この買収により、ルネサスはコネクティビティのポートフォリオを拡げ、フィンテック、IoT、アセットトラッキング、ワイヤレス給電、さらに自動車向けで需要が拡大するNFCに対応することができるようになるとしている。

ルネサスは同社と2018年よりパートナーとして協業。Panthronicsが提供する高性能なNFCチップセットやソフトウェアは、その導入の容易さ、革新性、そして小型サイズという特長から、決済端末、IoT、そしてNFCによるワイヤレス給電といった分野で活用されてきたという。ルネサスでは、今回の買収により、Panthronicsが持つ市場優位性の高いNFC技術を内製化し、成長が期待されるNFCの市場機会を機敏に捉えることができるようになるとしている。

また、「クイックコネクトスタジオ」に互換的なNFC対応コネクティビティモジュールも開発しており、これによりユーザーは、高性能なNFC機能を、プラグ・アンド・プレイ方式で容易に付加することが可能となるという。

次々と世界中の半導体設計ベンチャーを買収するルネサス

ルネサスは近年、Intersil、IDT、Daialog Semiconductorといった老舗半導体メーカーを相次いで買収してきたが、それらのほか、世界中の有望な新興ファブレスの買収を着々と進め、製品ポートフォリオを拡大してきた。

例えば2021年には、イスラエルのWi-FiソリューションプロバイダCeleno Communicationsを買収(完全子会社化)。同社は、ホームネットワーク、スマートビルディング、通信、産業分野向けに、Wi-Fiチップセットなど幅広い無線通信技術を提供しており、現在、それらの技術を組み合わせた多数のウィニング・コンビネーションソリューションが発表されている。

また2022年にも、組み込みAIソリューションプロバイダの米Reality Analyticsや4Dイメージングレーダ製品を手掛ける印Steradian Semiconductorsを買収。Realityは、2016年創業で、自動車、産業、民生機器向け非画像領域の高度センシングを実現する、高効率な組み込みAIや機械学習ソリューションの提供に特化しており、これによりハードウェアを含めた包括的で高度に最適化されたエンドポイントソリューションが提供可能になったとしている。一方のSteradianも2016年創業の優れたレーダー技術を所有するベンチャーであり、ルネサスはそのレーダー技術を活用し、車載および産業用のセンシングソリューションを拡充するとしている。

このほか、ルネサスはLPWAN向けの無線通信モジュールを仏Sequans Communicationsと開発し、商品化している。Sequansは4G/5GセルラIoTデバイス用集積回路とモジュールを手掛けており、今回のPanthronicsのように将来的には買収する可能性もあると見る業界関係者も少なくない。現在のルネサスは、そうした買収した企業の特化した技術と人材を活用することで新製品を次々と上市しており、まるでシリコンバレーのファブレスのような勢いのある企業へと変貌を遂げている。