宇都宮大学(宇大)と新潟医療福祉大学(NUHW)の両者は4月3日、世界選手権で優勝経験のある日本代表ラート競技選手1名を対象に、20か月間にわたってメンタルヘルス・起床時心拍情報をモニターし、心拍情報の1つである起床時立位姿勢で計測される心拍変動が個人内のメンタルヘルスの変動と関係することを解明。起床時心拍変動がアスリートのメンタルヘルス低下を予測するバイオマーカーとして有用であることを示したと共同で発表した。

  • ラート競技とは、2本の鉄の輪を平行につないだ器具を操る、ドイツ発祥のスポーツ。直転、斜転(左)、跳躍(右)の3種目からなり、技の難易度や美しさを競う採点競技

    ラート競技とは、2本の鉄の輪を平行につないだ器具を操る、ドイツ発祥のスポーツ。直転、斜転(左)、跳躍(右)の3種目からなり、技の難易度や美しさを競う採点競技(出所:宇大プレスリリースPDF)

同成果は、宇大 共同教育学部の松浦佑希助教とNUHW 健康スポーツ学科の越智元太講師の共同研究チームによるもの。詳細は、生理学的システムなどを扱う学術誌「Applied Psychophysiology and Biofeedback」に掲載された。

アスリートは、激しいトレーニングを日々続けているだけでなく、マスコミやソーシャルメディアの視線にさらされるなど、さまざまなストレスにさらされている。このような精神的・肉体的ストレスは、メンタルヘルスの低下を招き、パフォーマンス低下や心身の健康問題にまでつながってしまう可能性がある。さらには、こうした負の影響により、競技からの早期引退を招いたり、場合によっては競技後の生活にまで支障するようなことも懸念されている。そのため、アスリートのメンタルヘルスの低下予防は、日本の競技力向上に加え、スポーツ実施者の増加といった点で重要な課題とされている。

これまでは、メンタルヘルス低下やストレスの評価法として、質問紙による心理的評価法が主に用いられてきた。同手法は、素早く情報が得られる点で優れている一方、性別や性格、環境などの個人差の影響を受けやすく、正確な診断が困難という大きな課題も残されていた。そこで研究チームは今回、心拍情報の1つである心拍変動に着目したという。

心拍変動は、心臓の鼓動の時間間隔変動であり、ストレスを受けると心拍変動値が低下することが知られている。心拍変動は、ウェラブル機器などの心拍計を用いて非侵襲的に測定できる生理指標であり、アスリートを対象とした横断的研究から、身体的ストレス(トレーニング量や怪我など)と関連することが示唆されているとする。

その一方で、心拍変動がパフォーマンスやメンタルヘルスの低下と関連するのかどうかはこれまでほとんど検証されておらず、コンディショニング指標としての有用性は不明なままだったという。そこで今回の研究では、同一選手を対象とした単一事例研究により、アスリート個人内のメンタルヘルスの変化と心拍変動が関係するかを検証したとする。