東北大学は3月30日、従来の触媒合成法と比較して低温である400℃で、バリウム(Ba)、鉄(Fe)、コバルト(Co)からなるペロブスカイト酸化物へ「フッ化物(F-)置換」を行うことで、F-の置換量を従来の電気化学的酸素発生反応(OER)触媒と比較して1桁向上させることに成功。その大きなF-置換量により金属イオンの価数が大きく変化することで、OER活性が最大4倍程度(水分解反応全体で、2~4倍程度の性能向上と推定)まで向上することを見出したと発表した。

同成果は、東北大 多元物質科学研究所の本間格教授、同・岩瀬和至助教らの研究チームによるもの。詳細は、米国化学学会が刊行する化学とその関連分野全般を扱う学術誌「Chemistry of Materials」に掲載された。

電気化学的な水分解反応では、その半反応であるOERが系全体のボトルネックとなっており、そのため高活性なOER触媒が必要とされている。これまでの研究から、高価で資源量が限られる貴金属のイリジウム(Ir)やルテニウム(Ru)を含む酸化物がOERを高効率で進めることが知られているが、安価な非貴金属のみからなる高活性OER触媒の開発が求められていた。

そうした中、金属イオン(Mn+)と酸化物イオン(O2-)からなるペロブスカイト構造を有する酸化物(以下「ペロブスカイト酸化物」)は、特にアルカリ性溶液中で高活性OER触媒として機能することから、近年注目されている。

OER触媒において、金属イオンの金属種やその価数はOER活性(触媒の性能)を決める重要な要素だ。従来のペロブスカイト酸化物からなるOER触媒の研究では、構造内に含まれる金属種、およびその組成を変えることでOER活性を向上させる取り組みが主流だった。それに対し、近年になって、ペロブスカイト酸化物中のO2-を、異なるサイズ・電荷を持つF-に置換(以下「F置換」)することで、OER活性を向上させる手法が注目されつつある。F置換では、F-とO2-の性質の違いから金属イオンの価数が変化するため、OER活性が向上することが期待できるという。

従来の研究では多くの場合、金属イオンおよびFを含む原料を高温(およそ700℃以上)で熱処理することで、F置換ペロブスカイトが合成されていた。ただ、この手法でも確かにF置換は起こるが、高温条件ではF-の大部分が構造から脱離してしまうため、F置換量は多くの場合Oに対して数%程度と少量だった。そのため、F置換が金属イオンの価数、ひいてはOER活性に与える影響は、限定的だったとする。