NTTは3月29日、バイオデジタルツインの実現に向けて、光刺激で素早く動くハイドロゲル薄膜を、独自のオンチップ構造形成法により生体を模した薄膜・管状構造とすることで、生体器官の動きを再現できる運動素子を作製することに成功したと発表した。

  • オンチップ型人工臓器のイメージ

    オンチップ型人工臓器のイメージ(出所:NTT Webサイト)

詳細は、ナノテクノロジーを含む材料科学に関する学際的な分野を扱う学術誌「Advanced Functional Materials」に掲載された。

細胞生物学や再生医療、創薬などの分野において、生体外で細胞を培養し、臓器のような高度な生体機能を人工的に再現する技術が重要視されている。特に、センサ基板上などで生体機能を再現可能なオンチップ型人工臓器を実現できれば、細胞レベルの解像度で各種臓器のさまざまな情報を精細なデータとして取得することが可能となる。そしてその結果、それらのデータをもとに自身をデジタル空間で再現した"バイオデジタルツイン"の構築も期待される。それらに加え、モデルから予想される各種パラメータを入力し、実際の臓器と比較したモデルの妥当性を検証する実機としての貢献も考えられるという。

こうしたオンチップ型人工臓器の創製に向けては、細胞の培養環境をいかに生体内に近づけられるかが課題であり、「生体に優しい材料」・「生体に近い形状」・「生体内の刺激環境」を同時に実現できる技術が求められているとする。

そうした中でNTTではこれまで、高い生体適合性を示すハイドロゲルに着目し、3次元形状へと構造化する技術を研究してきたという。ハイドロゲルは網目状の高分子に大量の水が保持された柔らかい材料であり、臓器や軟骨など、人体の構成材料と非常によく似た性質を示すことから、医用材料や細胞培養の基材として広く利用されている。

NTTではこれまで、このような生体に優しい材料が持つ「水を吸って膨らむ(膨潤)」性質と、「折れ曲がりながらはがれる(座屈剥離)」物理現象を利用した独自のオンチップ構造形成法を用いることで、生体に類似した薄膜・管状構造へと形状制御することに成功しているという。そして、この形状を生体器官のように複雑に動かすことを実現することで、生体内の動的刺激環境をも再現可能なプラットフォームとして、オンチップ型人工臓器創製の進展が期待されるとする。

そこで今回の研究では、「光で素早く動かせる」ハイドロゲル薄膜を設計・作製し、オンチップ構造形成法を適応させることで、光駆動型の運動素子を作製したという。

  • 光駆動型オンチップ運動素子の概要

    光駆動型オンチップ運動素子の概要(出所:NTT Webサイト)