岡山大学は3月29日、日本各地に設置されたコイン精米機から採集した貯穀害虫「コクヌストモドキ」を用いて、生息地の緯度と「死んだふり行動」の関係を調査した結果、高緯度(北)の個体は低緯度(南)の個体よりも、死んだふりを高頻度で長い時間行うことが明らかになったと発表した。
同成果は、岡山大 学術研究院 環境生命科学学域の松村健太郎研究助教と同・宮竹貴久教授の研究チームによるもの。詳細は、英国王立協会が刊行する生物学全般を扱う学術誌「Biology Letters」に掲載された。
多くの動物は、捕食される危険から回避するために、死んだように動かなくなる「死んだふり行動」を示すことが知られている。ただし、捕食される危険性がその生息域の緯度によってしばしば異なる「緯度クライン」があることが知られていたことから、死んだふり行動にも同様にそれがある可能性が推測されていた。しかし、それを調べた研究はこれまでなかったという。
そこで研究チームは今回、米や小麦粉などの穀物を食害する貯穀害虫として世界中に分布しており、日本国内ではコイン精米機で容易に採集することが可能なコクヌストモドキを用いて、死んだふり行動と生息地の緯度の関係を調査することにしたという。
今回の研究でコクヌストモドキの野外個体群が採取されたのは、最北が青森県五所川原市、最南が沖縄県西表島、日本各地38か所のコイン精米機だ。そして、母性効果(母親による影響)を排除するため、2世代にわたって実験室で累代飼育を行い、各個体の死んだふりが観察された。
その結果、死んだふり行動を示した個体の割合と死んだふり持続時間の両方に地理的な変異が見られたという。さらに、高緯度の個体群の方が低緯度の個体群よりも、死んだふりを示す個体の割合が高く、その持続時間も長いことが判明した。この結果は、コクヌストモドキの死んだふり行動に緯度クラインがあることを示すとする。
また今回の研究では、同一環境下で累代飼育した個体を調査対象としていたため、この死んだふり行動の緯度クラインには遺伝的基盤があることが示唆されているという。
異なる緯度に生息する虫の間で死んだふり行動に違いが見られた原因としては、緯度に伴う捕食圧の変化によって、死んだふり行動における進化が異なっていた可能性が示唆されるとした。
研究チームによると、動物の死んだふり行動は、ダーウィンやファーブルなど、古くから多くの研究者の注目を集めていたが、その野外個体群における緯度クラインが明らかにされたのは、今回の研究が初めてだとする。さらに、今回の研究は生物学の基礎研究であるが、地域で昆虫の捕食回避行動が異なるという知見は、より効率の良い害虫防除法を開発する上でも重要であることが考えられるとしている。