三菱電機は3月29日、生体への影響が小さい300GHz帯のテラヘルツ波を用いて、一方向から1回照射するだけで、移動する対象物を数mmの解像度で撮像可能で、対象物の内部について任意の深さで断層イメージングを行える技術を開発したことを発表した。
セキュリティチェックの現場でよく用いられているX線検査装置は、主に手荷物検査などに用途が限定されていた。また、ミリ波を用いたボディスキャン装置は、人物が静止した状態で全身に対して周囲180度から測定を行うため、機器のサイズが大型化する傾向があった。そのため、駅やスタジアムなどでもセキュリティの強化が求められている近年でも、上述のセキュリティ装置は空港以外の公共空間への導入があまり進んでいない。
それに加え、製造現場では人手不足を背景に、生産や検査ラインの自動化・省力化のニーズが高まっている。しかし、従来の光学カメラや赤外線カメラを用いた製品検査は、外観検査に用途が限られており、たとえば食品工場で容器の内部を検査する際は、抽出したサンプル品の蓋を開けて人手で調べる必要があったという。
そこで三菱電機は今回、生体への影響が小さいテラヘルツ波を用い、一方向から1回の照射を行うだけで対象物の断層イメージングを行えるスキャン技術を、「バーチャルフォーカスイメージング技術」と、複数のイメージを合成し誤検出を低減する「マルチモードビームフォーミング技術」を組み合わせることで開発したという。
今回開発されたスキャン装置は移動する物体の撮像も可能で、ウォークスルー型のセキュリティゲートや、ベルトコンベアなどで流れてくる生産ライン上での非破壊検査にも適用可能だとする。また装置の小型化が可能で、さまざまな場所への導入もしやすいという。
なお、今回の装置では、300GHz帯のテラヘルツ波が採用された。複数のアンテナ素子を規則的に配置したテラヘルツアレー型センサを使用し、断層イメージを数mmの解像度で生成するセンシング技術となっている。また対象物の断層イメージングについても実証済みだとする。
従来は、各アンテナ素子からの信号の位相を調整して物理ビームを形成し、測定対象に物理ビームをさまざまな角度から複数回照射することで対象全体を撮像するというものだった。それに対し今回開発されたバーチャルフォーカスイメージング技術は、一方向から1回の照射で反射波の測定を行い、その測定データをもとに仮想空間上で複数地点に焦点を合わせたバーチャルビームを形成するというものだ。一度の測定で広範囲の断層イメージを生成することで、移動する物体も撮像可能となっている。
それに加え、従来の物理ビームイメージング技術では、物理ビームを形成する際に余分なビームによるゴースト(誤検出)が発生するため、これを解消するために多数のアンテナ素子を有する大型な装置が必要だったが、今回のマルチモードビームフォーミング技術は、広帯域な信号を有するテラヘルツ波により、周波数ごとに異なるビーム形状(マルチモード)の形成ができるため、得られた測定データに対し周波数ごとにバーチャルビームを形成し、複数のイメージを合成することが可能となっている。これにより周波数の異なるイメージを合成することで誤検出を低減でき、また装置の小型化も可能とした。
三菱電機は今後、今回開発された技術を、ウォークスルー型のセキュリティゲートやベルトコンベアなどで流れてくる生産ライン上での非破壊検査など、さまざまな場所での実用化に向けた製品開発を進め、早期の事業化とサービスの展開を目指すとしている。